改訂新版 世界大百科事典 「機能局在」の意味・わかりやすい解説
機能局在 (きのうきょくざい)
functional localization
ヒトの大脳皮質は不規則なしわに覆われて,肉眼的には一様の構造のように見える。しかしブローカP.Brocaによる運動性言語野の発見(1861)以来,場所による機能の違いが明らかになった。これを脳の機能局在という。しかし歴史的にみると,脳は全体として働くのであって,いろいろな機能中枢のモザイクとは考えられないという全体論の根強い反論があり,局在論との対立は現在まで尾を引いている。
機能局在を研究する第1の方法は臨床神経心理学で,脳に限局した病変のある患者の症状から,ある場所の機能を推定する方法である。この方法でウェルニッケC.Wernickeは感覚性言語野を発見し(1874),書字,読字,計算などの中枢が明らかになった。また,さまざまな失語症や失行症の研究によって認識や行為の機能局在が明らかとなり,クライストK.Kleistはこれによる詳細な機能地図を作ったが(1934),モナコフC.von MonakowやゴルトシュタインK.Goldsteinらはこれに強く反対した。第2の方法は刺激実験で,フリッチュC.T.FritschとヒッチヒE.Hitzigはイヌとサルの大脳皮質の電気刺激で運動野を発見した(1870)。その後フェルスターO.FoersterやペンフィールドW.Penfieldは,ヒトの大脳皮質の刺激で運動野と体性感覚野の精密な体部位局在地図を作った(1936,37)。第3は破壊実験で,フェリアーD.Ferrierはサルの運動野の破壊で対側の運動麻痺が起こることを示し(1876),運動野が随意運動の中枢であると主張したが,ゴルツF.L.Goltzはイヌの大脳皮質をほとんど切除しても正常に近い運動ができることを示してこれに反対した(1881)。一方,ムンクH.Munkはイヌの破壊実験で視覚野や体性感覚野の局在を明らかにした。第4の方法は形態学で,ブロードマンK.Brodmann,エコノモC.von Economoらによる細胞構築地図は機能局在とかなりよく一致するが,まだ未知の部分も多い。またフレクジヒP.Flechsigは髄鞘発生の違いによって投射野,周辺野,連合野の区分を確立した。第5は記録実験で,エードリアンE.D.AdrianやウールジーC.N.Woolseyらは表面電極による誘発電位で感覚野の細かい地図を作った。最近では,微小電極による単一ニューロン活動の記録によって大脳皮質が小さな機能的コラムから構成されていること,また感覚周辺野が機能の違う数多くの領野から成り立っていることが明らかになった。
さて大脳半球の機能の左右差については,スペリーR.W.Sperryらによる分離脳の研究で,右半球が音楽のメロディや顔や絵や地図の認識など非言語的機能を分担していることが明らかになった(1962)。またゲシュウィントN.Geschwindはいろいろな失語症や失行症が各領野間の繊維結合の切断によって起こる離断症候群であることを示した(1965)。これによって,高次の精神機能の多くが1個の中枢ではなく,数多くの領野間の連絡によって成り立つ複雑なシステムによって営まれていることが明らかになった。
→大脳皮質
執筆者:酒田 英夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報