運動野(読み)ウンドウヤ(英語表記)motor cortex

デジタル大辞泉 「運動野」の意味・読み・例文・類語

うんどう‐や【運動野】

大脳皮質で、骨格筋随意運動の命令を出す領域。主として側頭葉の中心溝の前側の部位運動領。→感覚野連合野

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精選版 日本国語大辞典 「運動野」の意味・読み・例文・類語

うんどう‐や【運動野】

  1. 〘 名詞 〙 脊髄などに神経線維を送り、運動の開始と調節にかかわる大脳皮質の領野運動中枢。運動領。

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改訂新版 世界大百科事典 「運動野」の意味・わかりやすい解説

運動野 (うんどうや)
motor cortex

大脳皮質の中で運動に特異的に関係している領域をいう。ヒトサルの脳でいえば,大脳半球を前後に分ける中心溝のすぐ前にある中心前回が第1次運動野で,ここを電気刺激すると低い閾値(いきち)(弱い刺激)で身体の反対側の一部に限局した速い運動(攣縮(れんしゆく)運動)が起きる。またこの部分を破壊すると対側の運動麻痺が起きる。ここはブロードマンW.J.Brodmannの細胞構築地図によれば4野(エコノモC.Economoの構築地図ではFA野)にあたり,ほとんど全部が錐体細胞からなる無顆粒皮質で,第5層にベッツ細胞と呼ばれる巨大錐体細胞があるのが特徴である。錐体細胞の繊維は,大脳脚から橋を経て延髄で錐体という大きな繊維束をつくって交差し,対側の脊髄側索の中を下行し,少なくとも一部は脊髄前角の運動神経細胞に直接シナプス結合している。この経路を錐体路または皮質脊髄路といい,随意運動のおもな出力経路となっている。

 運動野を発見したのはドイツのフリッチュG.T.FritschとヒッチヒE.Hitzig(1870)で,イヌの大脳皮質の前部を電気刺激すると前肢,後肢,顔面などに限局した運動が起きることを見つけた。これは大脳の機能局在を初めて実験的に証明した研究として有名である。その後イギリスのフェリアーD.Ferrier(1876)は,サルの大脳皮質刺激で運動が起きる身体の部分が中心前回の上で規則的に配列していることを確かめた。これを運動の体部位局在という。ドイツのフェルスターO.Foerster(1936)とカナダのペンフィールドW.Penfield(1939)がヒトの運動野で体部位局在を調べた結果によると,中心前回の内側面は足指と足首に対応し,外側面では正中から順に下肢,軀幹,上肢,手,顔の領域が並び,ちょうどヒトが逆立ちしたような配列になっている。この配列は,中心後回の体性感覚野のそれとほぼ対称的である。身体の各部分を支配する運動野の面積と比例するような小人(ホムンクルスhomunculus)の絵を描くと,手の指とくちびると舌が異常に大きくなる。このことは,これらの部分の運動が最も精密な随意的制御を受けていることを表している。その後,ウールジーC.N.Woolseyはサルの運動野の体部位局在地図をつくったが,ヒトに比べると足の占める面積が大きい。また,この地図には,内側面の第1次運動野より前にもう一つの運動野が描かれている。これを補足運動野(MII)と呼び,この部分の刺激で第1次運動野よりもまとまった複雑な運動が起こる。ヒトでは補足運動野の刺激で,発声とそれに伴う顔面とあごの運動や四肢と体幹と頭の複合運動などが起きる。最近ヒトの脳の活動を代謝や血流の変化で測定する方法により,この領野が複雑な順序で手指を動かすようなときに活動することがわかった。この結果,補足運動野が随意運動のプログラミングに関係しているという説が裏付けられた。なお外側面で第1次運動野のすぐ前の部分は運動前野と呼ばれ,空間的に複雑なパターンの運動を制御する場所であろうと考えられている。補足運動野と運動前野は,いずれもブロードマンの6野(エコノモのFB野)で広義の運動野に含まれる。なお運動前野のすぐ前には随意性眼球運動を起こす前頭眼野がある。
大脳皮質
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「運動野」の意味・わかりやすい解説

運動野
うんどうや

大脳皮質の中で、運動の指令を送り出す神経細胞が集まっている領域で、前頭葉の第一次運動野(4野)、運動前野(6野)および半球内面の補足運動野がある。ヒトでは第一次運動野がとくに発達分化していて、身体運動にかかわるいろいろな部位が、ここに対応する神経系の部位をもっている。第一次運動野の上の方には足に対応する部位が、下の方には顔面に対応する部位が局在している。顔面上部では両方向伝導される両側性に対応しているが、その他の部位は一方向にのみ伝わる一側性に対応している。また、言語と手の運動に使われる筋を支配する領域が、ヒトではとくに広くなっているために、他の動物と比べて、言語を含めた身体運動をきわめて巧妙に行うことができる。

 運動野にある神経細胞から出る神経線維は、途中で交叉(こうさ)して脊髄へ下るので、脳と身体とでは運動支配が反対になっている。したがって、左側の運動野が壊れると、右側の筋肉が麻痺(まひ)するわけである。ただし、顔面上部は、前述のように両側支配であるため麻痺がおこらない。

[鳥居鎮夫]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「運動野」の意味・わかりやすい解説

運動野
うんどうや
motor area

運動皮質ともいう。大脳皮質の一部で,表面を電気などで刺激すると筋肉収縮を起す部分。骨格骨を支配する脳幹と脊髄の運動神経細胞に神経信号を送って運動を起させる。大脳皮質上の機能は部位により異なり (これを機能局在という) ,運動野は中心溝の前の部分に存在する。普通は中心前回にある一次運動野をいうが,広義の運動野としては,このほか,中心傍小葉の補足運動野,下前頭回にある言語野のほか,二次運動野,前運動野などが含まれる。これらの運動野,特に一次運動野から出る神経線維のうち,延髄錐体を通過するものを錐体路,それ以外のものを錐体外路と呼ぶ。

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世界大百科事典(旧版)内の運動野の言及

【運動】より

…この随意運動を司令する意志が大脳のどこで生ずるのかは,現在まだよくわかっていない。随意運動の発現に直接関与する運動領域として,大脳皮質の運動野(領),前運動野,補足運動野,連合野などがある。これらの領域からの下行性インパルスが,脊髄,脳幹の体肢筋,顔面筋などを支配している運動ニューロンを活動させ,運動を引き起こす。…

【大脳皮質】より

…その突起の分布状態から垂直型,水平型,局部型などに分類される。この層も変異が大きく,運動野などでは発達が悪いが,その反面,感覚野とくに視覚野では非常に幅が広く,いくつかの亜層に分けられている。そして,この層は多数の求心繊維とくに視床核からの投射を受け,それらの終末分枝と考えられる水平方向に走る有髄繊維が密集して線条をなしている(外バイヤルジェ線条)。…

【連合野】より

…大脳皮質(新皮質)の中で感覚野と運動野のいずれにも属さない領野をいい,高次の精神機能に関係すると考えられている。フレクシヒPaul E.Flechsig(1847‐1929)が髄鞘発生の研究から見いだした区分である。…

※「運動野」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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