日本大百科全書(ニッポニカ) 「武道初心集」の意味・わかりやすい解説
武道初心集
ぶどうしょしんしゅう
教訓、武士道書。3巻3冊。兵法家の大道寺友山(だいどうじゆうざん)(1639―1730)の著。述作年代は友山晩年の1725年(享保10)ころ。その内容は、武士の子弟のために、武士としての基本的な心構えや日常修身の要諦(ようてい)を懇切に説いたもので、原著は56か条からなり、一部の人々に伝写されて読まれたにとどまったが、1834年(天保5)信州松代(まつしろ)藩の家老恩田(おんだ)公準、鎌原桐山の両人が儒官小林畏堂の協力によって、44か条に刪修(さんしゅう)改編し、啓蒙(けいもう)書としての体裁を整え、同年11月江戸の和泉屋吉兵衛から出版した。ときに天保(てんぽう)の改革期にあたり、士風の刷新が時代の急務とされたため、松代版の名で広く一般に普及するに至った。この松代版の特色は、原著にみられる神道(しんとう)的な表現や、同時代の『葉隠(はがくれ)』に強調された戦国武士的な遺習などはこれを削除し、一方、治世の武士たちの官僚的・功利的傾向にも厳しい批判を加え、治乱両様に対応できる武士の日常のあり方を提示している。
[渡邉一郎]