日本大百科全書(ニッポニカ) 「残留側波帯方式」の意味・わかりやすい解説
残留側波帯方式
ざんりゅうそくはたいほうしき
vestigial sideband system
2011年(平成23)7月までテレビジョン放送に使用していた電波の変調方式であり、画像信号を送信するための振幅変調・単側波帯方式の一種。略称VSB方式。通常、振幅変調された電波の占有周波数帯幅は、信号に含まれる最高周波数の2倍になる。NTSC方式のテレビジョンの映像信号は最高周波数が4.5メガヘルツもあるために、通常の振幅変調を用いれば、その占有周波数帯幅は画像だけでも9メガヘルツにもなる。この幅を半減させるには単側波帯方式(SSB方式)を用いればよいが、テレビジョンでは、とくに搬送波との同調を正確にして信号の直流分に近いような低い周波数部分の再現性をよくする必要があり、SSBでは受像機が高価になる。そのために、SSBでありながらレベルを抑圧した搬送波と、本来は抑圧してしまう一方の側波帯のなか、搬送波に近接した成分を残存させておく方法が考えられた。このようなSSB方式では、通常のSSBのように、受信側において搬送波や側波帯を再生する手数がいらず、容易、かつ正確に復調できる。このような方式を残留側波帯方式とよび、通常の振幅変調波と同様な検波方式で容易に信号の再生ができるという便利さと、占有周波数帯幅がほぼ半減するというSSB方式の利点とを適度に組み合わせた優れた伝送方式である。地上デジタル放送の開始によってテレビジョン放送用としては使用されなくなったが、電波法施行規則第4条の2にC3Fという電波の型式として規定されており、使用が禁止されているわけではない。
[石島 巖]