(読み)け

日本大百科全書(ニッポニカ)「毛」の解説


一般に動物の体表にみられる糸状物をいい、植物でも表皮細胞から発生した突起物を毛とよんでいる。以下、動物と植物に分けてそれぞれ述べるが、ヒトの毛については毛髪として別に扱っている。

[大岡 宏]

動物の毛

哺乳(ほにゅう)類の体表の大部分を覆う糸状の器官で、発生的には表皮の一部である。表皮の胚芽(はいが)層が肥厚し、真皮の中に伸びて、その先端に毛嚢(もうのう)(表皮性毛嚢)を生じる。毛嚢の周辺部は真皮からできるので真皮性毛嚢とよばれる。毛嚢の中にある毛の部分を毛根という。毛嚢の上部には皮脂腺(せん)が開き、また平滑筋性の立毛筋がつく。毛嚢の中心部で細胞が分裂し角化したものが毛であるが、この細胞分裂には休止期と成長期があり、成長期のときだけ毛が伸長し、休止期になると毛嚢全体の形態も変化し、長さが短くなり、成長期には表皮細胞に抱き込まれていた毛乳頭が突出するようになる。ヒトの頭髪などは成長期が長く2年ほども続くが、多くの哺乳類の体毛は成長期が短く、一定の周期または季節変化によって成長期と休止期を繰り返し、毛の長さは一定に保たれる。一般の哺乳類の毛は軟毛(綿毛(わたげ))と粗毛とからなるが、ブタなどの剛毛、ヤマアラシの棘(とげ)などのように特殊な発達をしたものもある。胎児などの繊細な毛をうぶ毛という。哺乳類でもクジラ類は出生後は毛を生じない。また実験室で突然変異を利用してつくられたマウスの系統のなかには無毛のものがある。鳥類では毛のかわりに羽毛があり、無脊椎(むせきつい)動物で毛に似た構造としては鞭毛(べんもう)、繊毛などがある。

[大岡 宏]

植物の毛

植物学で毛とよばれるものは、表皮の細胞が外方へ突出したものである。かならずしも糸状の細長いものだけでなく、樹枝状に分岐したもの、鱗(うろこ)状のもの、いぼ状のもの、刺(とげ)状のものなど、さまざまな形態のものがある。植物の種類を同定するに際して、どの器官のどの部位にどんな形状の毛が生ずるか否か、またそれが若いときだけあるのか、成長後まで宿存するか、などの特徴は、しばしば類似種との区別点とされる。

 毛の役目はかならずしも明らかでないが、保護のほか、多くの場合は水をはじいたり、蒸散量を調節するのに役だっていると考えられる。余分な水を排出し、または粘液を分泌する毛もある。根の先端付近に生じる根毛は、水や水に溶けた養分を吸収する役と、根を地中に固着させる役をしている。細く軟らかい茎や葉に生じた刺状の毛は、草むらの中で他物と接触して自身の立体的な姿勢を保つのに有効である。種子や果実に生じた毛は、風や動物によって遠くまで散布されるのに役だち、このなかにはワタやパンヤのように利用されるものもある。雌しべの柱頭の毛は、形態と表面の粘液の両面から花粉を付着させるのに適している。特殊な例としては、毒液を含むイラクサの刺毛(しもう)、虫の接触を感じて捕虫に役だつハエジゴクの感覚毛などがある。

 外見が毛に似ていても、表皮だけでなく基本組織をも含む突起物は、毛状体とよんで区別される。

[福田泰二]

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精選版 日本国語大辞典「毛」の解説

け【毛】

〘名〙
[一] 動物の皮膚を覆う細い糸状のもの。
① 哺乳類の表皮が陥入してできた毛嚢(もうのう)の底部から生じた角質形成物。毛幹と毛根の部分に分けられる。体の保護や体温の調節に関係する。広義には生物体の表面にある糸状物のべん毛、繊毛、刺毛なども含む。
※万葉(8C後)一六・三八八五「わが爪は 御弓の弓弭(ゆはず) わが毛(け)らは 御筆(みふみて)はやし」
※俳諧・鶉衣(1727‐79)前「毛生ひむくつけき虫にも同じ名有(あり)て、松を枯し人にうとまる」
② 人間の髪の毛。かみ。
※栄花(1028‐92頃)見はてぬ夢「いと若う、けふくだみてぞ二人おはすめるも」
③ 鳥の羽。羽毛。
※宇治拾遺(1221頃)四「生けながらけをむしらせければ〈略〉鳥の、目より血の涙をたれて」
羊毛。また、羊毛製品や、羊毛製であることをいう。ウール。「毛のオーバー」
[二] 植物の表皮細胞から発生した突起、または毛状体の総称。綿毛、鱗毛、刺毛(しもう)など、構造・機能で種々にわけられる。毛茸(もうじょう)
※全九集(1566頃)二「香附子あまく微寒也。あかがねの刀にて毛をこそげつちにてうちくだいて」
[三] 一般に、毛のように見えるもの。
① 細い、糸状のものの総称。
※宇津保(970‐999頃)あて宮「宮の御台には、かねの御器(ごき)に黄金のけうち、銀(しろかね)の折敷(をしき)三十」
② 特に、鎧(よろい)の威(おどし)の糸。威毛(おどしげ)
※吾妻鏡‐文治五年(1189)八月一一日「甲毛者紅也」
※太平記(14C後)二六「師直がきせながの料に、同し毛(ケ)の鎧を二両まで置たりけるを」
[四] 魚の鱗(うろこ)。特に(こい)の鱗をさす。〔日葡辞書(1603‐04)〕
[五] 田畑の作物。作毛、毛上、毛付、毛見などをいう。
※多聞院日記‐文明一〇年(1478)四月二九日「於毛者以苅取

もう【毛】

〘名〙
① 長さの単位。寸の千分の一、尺の一万分の一に当たる。
※小学入門(甲号)(1874)〈民間版〉「尺の名は十毛(モウ)を一といひ、十厘を一分といひ、十分を一寸といひ」
② 重さの単位。の千分の一、貫の百万分の一に当たる。
※小学教授書(1873)〈文部省〉「天秤の目に、五つあり。十毛を、一厘といひ、十厘を、一分といひ、十分を、一匁といひ」
比率を表わす単位。割の千分の一、分の百分の一、厘の十分の一に当たる。
④ 金銭の単位。円の一万分の一、銭の百分の一、厘の十分の一。〔日葡辞書(1603‐04)〕

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百科事典マイペディア「毛」の解説

毛【け】

生物の体表に生じる細長く微小な突起物の総称。(1)動物。最も普通に使われる意味での毛は哺乳(ほにゅう)類に特有な糸状角質の皮膚付属器官。体表面の保護,体温の保持,触覚などに役だつ。鳥類の羽毛も特殊な形をした毛の変形物といってよい。ヒトでは手のひら,足底,唇(くちびる),陰茎・亀頭,陰核など以外の全身の皮膚にあるが,大部分はうぶげ(人類の特徴の一つ)で,一定の部位においてだけ硬毛である。その所在によって頭髪,眉毛(まゆげ),まつげ,ひげ,鼻毛,耳毛,さらに思春期以後は腋毛(えきもう),陰毛などがある。毛は皮膚の表面に出ている毛幹と,皮膚内にある毛根とからなり,毛根を包む皮膚の部分を毛包(毛嚢)という。毛包には立毛筋という平滑筋が付き,この筋が縮むと毛が立つ。ただしまつげ,眉毛,腋毛などには立毛筋がない。毛根の下端はふくらんで毛球といい,その下端には毛乳頭という結合組織があって,毛の発生,成長の源となる。毛は中心に髄質があってその表面を皮質が包む。髄質内に含まれるメラニン色素粒の多少によって,人種特徴の一つである毛髪色がきまる。色素粒がなくなって気泡(きほう)が増加すると白髪になる。昆虫類の皮膚の剛毛や刺毛も毛の一種で,ドクガなどでは毒がある。その他多くの無脊椎動物に鞭毛繊毛がある。(2)植物。植物の表皮細胞から発生した付属体の総称。内部の組織を伴うときには毛状体といって区別するが,両者を含めて広く毛という場合も多い。一表皮細胞の突出にすぎないものから多の細胞が集合して棍棒(こんぼう)状,樹枝状,傘(かさ)状などを呈するものまであり,また植物体を保護する綿毛,星状毛,物質を分泌する腺毛,食虫植物の消化毛などのように機能的にも変化が多い。
→関連項目表皮

毛【もう】

漢数詞では1/10厘つまり1/1000をいう。割合では1割の1/1000つまり1/10000をいう。尺貫法でも1/10厘の意味に使い,長さでは1/1000寸,質量では1/1000匁(もんめ)を表す。

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デジタル大辞泉「毛」の解説

け【毛】

生物の体表に生えている糸状のもの。鞭毛べんもう・繊毛・刺毛・剛毛・羽毛なども含む。
㋐哺乳類の皮膚に生じる表皮の変形器官。全身のほとんどを覆う、角質の構造物。
㋑頭髪。髪の毛。「を染める」
㋒羊毛。「のシャツ」
㋓植物体の表面に生じる細長い糸状のもの。「タンポポの
㋔鳥などの羽毛。「鳥のをむしる」
細い毛状のもの。「ブラシの
非常にわずかなことをたとえるのに用いる。「そんな気はほどもない」
よろいおどしの糸。おどしげ。
「同じ—の鎧を二両まで置きたりけるを」〈太平記・二六〉
作物。特に稲の穂の実り。作毛。
「秋の—の上を賜ひて下ぐべきにてありけるに」〈沙石集・三〉
魚のうろこ。特に鯉のうろこ。
「鯉に限って、うろこをふくとは申さぬ、—をふくと申す」〈虎寛狂・惣八
[下接語]の毛裏毛尾羽毛髪の毛猫っ毛三毛身の毛(げ)愛嬌あいきょう青毛赤毛あし命毛入れ毛うぶうわ枝毛おくれ毛おどし鹿かす川原かわら癖毛くり黒毛さか差し毛地毛棕櫚しゅろしり白毛き毛立ち毛力毛縮れ毛月毛つむじとら鳥毛夏毛二毛にこ抜け毛鼻毛雲雀ひばりぶち冬毛ほつれ毛巻き毛睫毛まつげまゆむく無駄毛胸毛わき綿毛
[類語]体毛身の毛羽毛ダウンフェザー

もう【毛】[漢字項目]

[音]モウ(呉) [訓]
学習漢字]2年
〈モウ〉
け。「毛髪毛筆毛布羽毛紅毛鴻毛こうもう純毛植毛繊毛梳毛そもう多毛・体毛・脱毛恥毛羊毛鱗毛りんもう
地表に作物が生育する。「不毛二毛作
ごく細かいもの。わずかなもの。「毛頭毛細管毫毛ごうもう
重さ・長さ・割合・数などの単位。「厘毛
毛野けの国。「上毛両毛
〈け〉「毛糸毛虫赤毛葦毛あしげ和毛にこげ眉毛まゆげ腋毛わきげ
[名のり]あつ
[難読]毛布ケット旋毛つむじ刷毛はけ

もう【毛】

数の単位。1000分の1。また比率では、1の1000分の1、1の10分の1。
尺貫法の単位の一。長さでは、1の1000分の1。重さでは、1の1000分の1。
貨幣の単位。1の10000分の1、1の10分の1。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典「毛」の解説



hair

毛髪ともいう。表皮の一部が変形したもの。体表の保護,保温に役立っている。哺乳類の特徴の1つ。人間では頭部に特に多いが,発毛の場所,年齢,性,人種によって色と硬度が異なる。毛は体外の毛幹と,皮内の毛根に分れ,成長は毛根で行われる。頭髪,体表全面のうぶ毛のほか,第2次性徴 (→性徴 ) の1つとして思春期に陰毛,腋毛などが発生する。一般に老化とともに白髪が増加し,毛髪数は減少するが,眉,口の周辺,などにかえって剛毛の生えることもある。発生は神経内分泌系,ことに性ホルモンと密接な関連があるとされている。


もう

(1) 小数の単位で 0.001。ただし何割何分何厘何毛というときは1割の 0.001倍,すなわち 0.0001。 (2) 尺貫法の長さの補助単位で,1寸の 0.001倍。 (3) 尺貫法の質量の補助単位で,1匁の 0.001倍。 (4) 日本の通貨単位で,厘の 0.1倍。



hair

高等植物の表皮に生じるさまざまな形状の突起物の総称。あらゆる器官にみられ,機能も分化している。

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単位名がわかる辞典「毛」の解説

もう【毛】

➀尺貫法の長さの単位。1毛は1尺の1万分の1、1寸の1000分の1。約0.0303mm。
➁尺貫法の重さの単位。日本古来のもの。1毛は1貫の100万分の1、1匁(もんめ)の1000分の1。約3.75mg。

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動植物名よみかた辞典 普及版「毛」の解説

毛 (モ)

植物。沈水植物の総称

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世界大百科事典 第2版「毛」の解説

け【毛 hair】

一般に生物の体表に生じた微小な直径をもつ細長い構造物を総称するが,その本態は,生物のグループにより,また体の部位により種々さまざまである。しかし普通に毛という場合,哺乳類の毛をさすことが多い。
【哺乳類の毛】
 哺乳類の毛は哺乳類特有のもので,クジラ類の大半を除くすべての種類が多かれ少なかれ毛を備えている(クジラ類の多くは口の周辺に少数の毛をもつ)。毛は,皮下に斜めに埋もれている毛根および毛球と,皮膚外に露出する毛幹の3部分に区別される。

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世界大百科事典内のの言及

【髪】より

…人体頭部の皮膚に植立する毛。頭毛,頭髪,髪の毛などとも称される。…

【禿】より

…もともと毛のある部位,ことに頭部の毛髪が欠如しているか,まばらとなった状態をいう。医学用語の脱毛症alopeciaは,日本語の意味からすれば,いったん生えた毛髪の脱落ということになるが,先天的な毛髪の欠落にも用いられることがあるので,ほぼそれと同義語と解釈してよい。…

【民間療法】より

…内科的には暑気当りにタデ,桃,キュウリなどの葉と塩とをまぜてもみ,その汁を背中や手足の裏に塗るのも刺激剤と思われる。鼻血が止まらぬとき襟(えり)の毛を数本引き抜くなどもこれに属するらしい。神経痛や寝ちがえたとき温湯で湿布し,石風呂に入って蒸したり,エンシキといって石塊を火で熱し海岸の砂穴の中に敷き,藻葉をその上に敷いてその上に寝転がるなどの方法も,温泉療法に近いもので,内臓や皮膚病にも有効とされる。…

【尺】より

…ここで実効上というのは,法文上は尺を長さの単位の基本としていることによる。したがって1尺は約30.303cmであり,分量単位は1/10尺の寸,以下十進法による分(ぶ),厘,毛である。倍量単位は寸法用と距離・間隔用に分かれ,寸法用の倍量単位は10尺に等しい丈,距離用の倍量単位は6尺の間(けん),60間の町,36町の里である。…

【寸】より

…古代中国から,また日本でも大宝令以前から用いられてきた。1/10尺に等しく,1891年制定の度量衡法では1/33m,すなわち約3.03cmで,分量単位は1/10寸の厘,以下,十進法による毛,糸である。また鯨尺1寸は鯨尺1/10尺に等しく,約3.8mmで,分量単位は1/10寸の鯨尺分である。…

【分】より

…(1)長さの単位。1/10寸に等しく,1891年制定の度量衡法では,曲尺(かねじやく)の場合約3.03mmであり,分量単位は十進法による厘,毛,糸である。また鯨尺1分は約3.8mmである。…

【匁】より

…1000匁を貫と呼んだが,1891年制定の度量衡法では逆に貫を基本としたため,匁は貫の分量単位となり,1/1000貫に等しく,3.75gである。分量単位は1/10匁の分(ふん),以下,十進法による厘,毛である。【三宅 史】。…

※「毛」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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