デジタル大辞泉 「黒髪」の意味・読み・例文・類語
くろかみ【黒髪】[作品名]
近松秋江の小説。大正11年(1922)発表。遊女に金を貢ぎ続ける男の妄執を描く。同年発表の続編に「狂乱」「霜凍る宵」がある。
( 1 )「万葉集」では「黒髪に白髪交り」(五六三)「黒髪の白くなるまで」(一四一一)など、黒髪に白髪を配して年老いたという、時の経過を表わす表現と、①の挙例の歌のように髪を梳き下げ男を待って横たわる女の姿を官能的に表出する表現の型がある。
( 2 )平安和歌では黒髪の若さと美しさとを潜在させながら、時の経過を歌う型は、「むばたまの我がくろかみや変るらむ鏡の影に降れる白雪〈紀貫之〉」〔古今‐物名〕のように白髪を雪や滝に見立てて老年の現在を歌う漢詩の影響の色濃い表現に変化し、男が女の髪を幻視して恋う型は、「黒髪の乱れて知らずうちふせばまづ掻きやりし人ぞ恋しき〈和泉式部〉」〔後拾遺‐恋三〕のように、女が自分の髪に残る恋人の感触に恋情をほとばしらせる型に変容し、定型化する。
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地唄(じうた)、長唄の曲名。地唄は1801年(享和1)の文献に初出。作詞者不詳、初世湖出(こいで)市十郎作曲。長唄は初世桜田治助作詞、初世杵屋(きねや)佐吉作曲のめりやすもので、1784年(天明4)11月江戸中村座初演の歌舞伎(かぶき)狂言『大商蛭小島(おおあきないひるがこじま)』の二番目に用いたのが初め。伊東祐親(すけちか)の娘辰姫(たつひめ)は、源頼朝(よりとも)への恋を北条政子(まさこ)に譲り、2人を2階へあげるが、髪をすいているうちに嫉妬(しっと)に駆られて狂おしくなるという場面である。地唄も長唄も三味線は三下りの調弦。地唄に箏(こと)が入るときは低平調子。どちらの曲も旋律的には類似している。ただ地唄には「妻じゃというて」のあとに長い合の手が入る。歌詞の内容は、ひとり寝で寂しく夜を明かす女心のやるせなさを詠んだもの。地唄は舞を伴い、井上流は初世八千代振付け、山村流は初世友五郎振付け。下座のめりやすには胡弓(こきゅう)を併奏する場合が多い。
[茂手木潔子]
近松秋江(しゅうこう)の連作小説。1922年(大正11)1月『改造』掲載の短編『黒髪』に、続編として同年『狂乱』『霜凍る宵(よい)』を書き継ぎ、24年単行本『黒髪』として新潮社から刊行。「私」はいつの日かいっしょになることを夢みながら祇園(ぎおん)で遊女をしているお園に送金を続けていた。しかし女は突然姿を消してしまう。「私」はその行方を探し回り、ついに居所をつきとめるが、彼女の強欲な義母に妨げられて会うこともできずにいた。そして苦労のすえようやく会うことをえたが、実は彼女には以前から世話をする男がいた。女の裏切りに怒りながらもあきらめきれない男の妄執を描いた私小説の代表的傑作。
[田沢基久]
『『日本文学全集14 近松秋江集』(1974・集英社)』
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出典 日外アソシエーツ「歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典」歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典について 情報
…これは,嫉妬に狂う女の髪はおのずと逆立つという中世以来の心意伝承を踏まえ,髪を梳くことによって嫉妬の激しい怒りを表現する技巧。《大商蛭子島(おおあきないひるがこじま)》の辰姫の髪梳きは,めりやす《黒髪》を伴奏とすることで有名。《東海道四谷怪談》のお岩の髪梳きは,めりやす《瑠璃(るり)の艶(つや)》を伴奏に,これが一場の通称になるほど重要な演技局面である。…
※「黒髪」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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