黒髪(読み)クロカミ

デジタル大辞泉 「黒髪」の意味・読み・例文・類語

くろかみ【黒髪】[作品名]

長唄地歌の曲名。初世桜田治助作詞、初世杵屋佐吉きねやさきち(地歌としては湖出こいで市十郎)作曲。天明4年(1784)江戸中村座初演歌舞伎狂言大商蛭小島おおあきないひるがこじま」で、伊東祐親いとうすけちかの娘辰姫が恋しい頼朝政子に譲ったあと、ひとり髪をすきながら嫉妬しっとに身を焦がす場面に用いられた。
近松秋江の小説。大正11年(1922)発表。遊女に金を貢ぎ続ける男の妄執を描く。同年発表の続編に「狂乱」「霜凍る宵」がある。

くろ‐かみ【黒髪】

黒くてつやのある髪。髪の美称。「緑の黒髪
[補説]作品名別項。→黒髪
[類語]頭髪髪の毛毛髪地髪地毛自毛

こく‐はつ【黒髪】

黒い髪の毛。くろかみ。

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精選版 日本国語大辞典 「黒髪」の意味・読み・例文・類語

くろ‐かみ【黒髪】

  1. [ 1 ] 〘 名詞 〙
    1. 色黒くつやのある髪。また、髪の美称。
      1. [初出の実例]「ぬばたまの 久路加美(クロカミ)敷きて 長き日(け)を 待ちかも恋ひむ 愛(はし)き妻らは」(出典:万葉集(8C後)二〇・四三三一)
    2. 喝食鬘(かっしきかずら)のこと。
      1. [初出の実例]「大男にていられしが〈略〉自然居士などに、くろかみ着、高座に直られし、十二三斗に見ゆ」(出典:申楽談儀(1430)序)
  2. [ 2 ]
    1. [ 一 ] 長唄・地唄。歌舞伎「大商蛭小島(おおあきないひるがこじま)」(天明四年一一月江戸中村座初演)で、伊東祐親(すけちか)の娘辰姫が、頼朝への恋を北条の娘政子へ譲って、二人を二階へ上げたあと、自分の髪をすきながら、嫉妬に胸をこがすという場面のめりやすに使われた。歌詞は、独り寝の女の、やるせない心をうったえたもの。初演は長唄で杵屋佐吉の作曲。地唄にも取り入れられた。
    2. [ 二 ] 小説。近松秋江作。大正一三年(一九二四)刊。苦しい生活の中から遊女に仕送りする男の愛執の情を描いた代表的情話文学。

黒髪の語誌

( 1 )「万葉集」では「黒髪に白髪交り」(五六三)「黒髪の白くなるまで」(一四一一)など、黒髪に白髪を配して年老いたという、時の経過を表わす表現と、挙例の歌のように髪を梳き下げ男を待って横たわる女の姿を官能的に表出する表現の型がある。
( 2 )平安和歌では黒髪の若さと美しさとを潜在させながら、時の経過を歌う型は、「むばたまの我がくろかみや変るらむ鏡の影に降れる白雪紀貫之〉」〔古今‐物名〕のように白髪を雪や滝に見立てて老年の現在を歌う漢詩の影響の色濃い表現に変化し、男が女の髪を幻視して恋う型は、「黒髪の乱れて知らずうちふせばまづ掻きやりし人ぞ恋しき〈和泉式部〉」〔後拾遺‐恋三〕のように、女が自分の髪に残る恋人の感触に恋情をほとばしらせる型に変容し、定型化する。


こく‐はつ【黒髪】

  1. 〘 名詞 〙 黒くつやのある髪の毛。くろかみ。
    1. [初出の実例]「黒髪長く垂れて双肩に及び」(出典:花柳春話(1878‐79)〈織田純一郎訳〉二二)
    2. [その他の文献]〔神仙伝‐五・泰山老父〕

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普及版 字通 「黒髪」の読み・字形・画数・意味

【黒髪】こくはつ

黒い髪。〔神仙伝、泰山老父〕の武、東のかた狩し、老傍に(す)くを見る。~曰く、臣年十五の時、老死に垂(なんなん)とす。~へるに、臣にふ。臣之れを行ひ、老を轉じて少と爲り、(あらた)め生じ、齒復(ま)た出づ。~臣今一百なりと。

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改訂新版 世界大百科事典 「黒髪」の意味・わかりやすい解説

黒髪 (くろかみ)

邦楽曲の曲名。(1)地歌 (a)繁太夫物髪梳き》の別称。(b)湖出(こいで)市十郎作曲と伝えられる三下り端歌。鈴木万里が流行させ,また,津山検校が得意として,その歌い方を〈津山ぶし〉といった。(2)長唄 めりやす物。上記の市十郎が江戸に戻ったあとで,1784年(天明4)所演の《大商蛭子島(おおあきないひるがこじま)》二番目〈髪梳きの場〉の辰姫の所作の下座唄として,杵屋佐吉・新太郎の三味線で歌ったものが伝わる。地歌の間奏部を変える。
髪梳き
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「黒髪」の意味・わかりやすい解説

黒髪(地唄、長唄)
くろかみ

地唄(じうた)、長唄の曲名。地唄は1801年(享和1)の文献初出。作詞者不詳、初世湖出(こいで)市十郎作曲。長唄は初世桜田治助作詞、初世杵屋(きねや)佐吉作曲のめりやすもので、1784年(天明4)11月江戸中村座初演の歌舞伎(かぶき)狂言『大商蛭小島(おおあきないひるがこじま)』の二番目に用いたのが初め。伊東祐親(すけちか)の娘辰姫(たつひめ)は、源頼朝(よりとも)への恋を北条政子(まさこ)に譲り、2人を2階へあげるが、髪をすいているうちに嫉妬(しっと)に駆られて狂おしくなるという場面である。地唄も長唄も三味線は三下りの調弦。地唄に箏(こと)が入るときは低平調子。どちらの曲も旋律的には類似している。ただ地唄には「妻じゃというて」のあとに長い合の手が入る。歌詞の内容は、ひとり寝で寂しく夜を明かす女心のやるせなさを詠んだもの。地唄は舞を伴い、井上流は初世八千代振付け、山村流は初世友五郎振付け。下座のめりやすには胡弓(こきゅう)を併奏する場合が多い。

[茂手木潔子]


黒髪(近松秋江の連作小説)
くろかみ

近松秋江(しゅうこう)の連作小説。1922年(大正11)1月『改造』掲載の短編『黒髪』に、続編として同年『狂乱』『霜凍る宵(よい)』を書き継ぎ、24年単行本『黒髪』として新潮社から刊行。「私」はいつの日かいっしょになることを夢みながら祇園(ぎおん)で遊女をしているお園に送金を続けていた。しかし女は突然姿を消してしまう。「私」はその行方を探し回り、ついに居所をつきとめるが、彼女の強欲な義母に妨げられて会うこともできずにいた。そして苦労のすえようやく会うことをえたが、実は彼女には以前から世話をする男がいた。女の裏切りに怒りながらもあきらめきれない男の妄執を描いた私小説の代表的傑作。

[田沢基久]

『『日本文学全集14 近松秋江集』(1974・集英社)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「黒髪」の意味・わかりやすい解説

黒髪
くろかみ

三味線音楽の楽曲名。 (1) 地歌 1世湖出市十郎 (?~1800) 作曲。1世鈴木万里 (?~16) が大坂で弾きはやらせた。三下り。箏を合せるときは,平調子または半雲井調子。大坂の1世津山検校が得意として,その歌い方を津山節ともいった。舞では詞章が語る女の恨みを離れて,座敷舞としての幽艶な姿態が重視される。各流派でさまざまな解釈がなされる。 (2) 長唄 天明4 (84) 年 11月江戸中村座所演の『大商蛭小島 (おおあきないひるがこじま) 』の髪すきの場に用いられた下座のメリヤス曲。湖出市十郎および1世杵屋佐吉が演奏,間奏部を省略したり補作したりした。 (1) との先行関係は明らかになっていない。 (3) 一中節 『小春髪結之段』の通称。

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百科事典マイペディア 「黒髪」の意味・わかりやすい解説

黒髪【くろかみ】

長唄および地歌の曲名。長唄は,1784年江戸中村座で初演された《大商蛭子島(おおあきないひるがこじま)》に用いられた〈めりやす〉で,初世杵屋佐吉作曲(一説に初世湖出市十郎との合作とも)。地歌は初世湖出市十郎作曲。市十郎の上方在住中の芝居歌が遺存したと伝えられる。両者の先後関係は不明。ほかに一中節の《小春髪結之段》の通称にも。

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歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典 「黒髪」の解説

黒髪
メリヤス
くろかみ

歌舞伎・浄瑠璃の外題。
演者
湖出市十郎 ほか
初演
天明4.11(江戸・中村座)

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デジタル大辞泉プラス 「黒髪」の解説

黒髪

日本のポピュラー音楽。歌は女性演歌歌手、神野美伽。2012年発売。作詞:荒木とよひさ、作曲:弦哲也。

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世界大百科事典(旧版)内の黒髪の言及

【髪梳き】より

…これは,嫉妬に狂う女の髪はおのずと逆立つという中世以来の心意伝承を踏まえ,髪を梳くことによって嫉妬の激しい怒りを表現する技巧。《大商蛭子島(おおあきないひるがこじま)》の辰姫の髪梳きは,めりやす黒髪》を伴奏とすることで有名。《東海道四谷怪談》のお岩の髪梳きは,めりやす《瑠璃(るり)の艶(つや)》を伴奏に,これが一場の通称になるほど重要な演技局面である。…

※「黒髪」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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