改訂新版 世界大百科事典 「求核反応」の意味・わかりやすい解説
求核反応 (きゅうかくはんのう)
nucleophilic reaction
イオン反応のうちで,試薬の攻撃を受ける基質の反応部位が電子不足の(形式的には正電荷を帯びた)状態にあり,負電荷をもつイオン種または非共有電子対をもつ試薬が基質に電子を与えるような反応をいう。親核反応,アニオノイド反応anionoid reactionと呼ばれたこともある。ルイス塩基として働く電子供与性試薬は求核試薬nucleophile(nucleophilic reagent)と呼ばれる。おもな求核試薬を表に示す。
求核反応は求核置換,求核脱離,求核付加に大別される。いずれの反応もその原動力は,基質内の電子吸引基によって生じた正電荷中心への求核試薬の攻撃である。脂肪族化合物での求核置換は,実験室でよく用いられる反応であり,官能基変換の代表的方法の一つである。
上記の反応で求核試薬(C2H5O⁻)は基質の炭素を攻撃すると同時に,隣接するメチレン水素の一つを求核攻撃してプロトンH⁺として引き抜く反応も同時に進行する。これに臭化物イオンBr⁻の脱離が起こるとアルケンが生成する。
多くの場合,求核脱離は求核置換と並行して起こる。その割合は,基質の構造,求核試薬の種類,その他の反応条件によって支配される。どちらの反応も,反応速度が基質の濃度だけによって決まる一分子反応と,基質と試薬双方の濃度によって決まる二分子反応がある。求核置換ではSN1,SN2,求核脱離ではE1,E2とそれぞれ区別する。一方,アルデヒドやケトンのカルボニル基C=Oの炭素は,ハロゲン化アルキル以上に求核攻撃を受けやすい。たとえばグリニャール試薬から生じるカルバニオン(たとえばC6H5⁻)は,カルボニル炭素を求核攻撃する。これにともない,カルバニオンの対イオンMgBr⁺がカルボニル酸素と結合して求核付加が完結する。この付加物を加水分解してアルコールを得る。
芳香族化合物は脂肪族化合物に比べて求核反応を受けにくい。しかしニトロ基-NO2のような強い電子求引基をもつ芳香族化合物では,求核置換も起こりうる。
→求電子反応
執筆者:竹内 敬人
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報