改訂新版 世界大百科事典 「法定外給付」の意味・わかりやすい解説
法定外給付 (ほうていがいきゅうふ)
社会保険は拠出や給付の条件を国が法律で定めて実施する強制力のある保険であるが,その直接的な運営は独立した保険者にゆだねられることも多い。その場合各保険者は,財政的な事情が許せば,被保険者の必要性を独自に判断して,法律で定められた必要最低限度の給付以外の給付を支給することが可能となる。それが認められている場合,一律に国が全保険者に給付を義務づける法定給付に対して,ある範囲内で保険者の裁量にゆだねられているその他の給付を法定外給付という。法定外給付はさらに,給付の種類そのものを独自に設ける任意給付と,法律で定められた給付の水準を独自に引き上げる付加給付とに分けられる。一般に法定外給付が支持されるのは,保険が組織されている職域や地域によって被保険者の必要性に差異が認められる場合や,自主的な保険事業の運営により財政効率が高められたり給付の改善が期待できる場合などであろう。厚生年金基金が支給する老齢年金の上乗せ分を付加給付と呼ぶこともあるが,一般には医療保険について用いられる。
任意給付には,国民健康保険の運営主体である市町村や国民健康保険組合が,条例や規約に定めて自主的に支給する育児手当金,出産手当金,傷病手当金などがある。付加給付には,大企業を中心に組織される健康保険組合が,政府管掌健康保険の法定給付に上乗せして支給する家族療養付加金,埋葬料付加金,分娩付加金などや,各種共済組合の同様の付加給付がある。これら付加給付が多数の被保険者の給付改善に貢献し,ひいては法定給付そのものの底上げを導いた意義は少なくないが,反面それが保険制度間の財政力格差を端的に反映し,社会保険給付に企業間格差をもたらし,社会保険制度の一環としてではなく労務管理的な理解を招いた側面も否定できない。もっとも今日では,法定給付そのものが引き上げられ,付加給付が機能する範囲ははるかに小さくなっている。
執筆者:一円 光弥
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報