一定年齢以上の高齢者に支給される年金で、年金保険制度の中心になる給付。年齢のみを要件とするものと、年齢に加えて退職などを要件とするものがある。日本では、全国民共通の老齢基礎年金は年齢要件のみで支給し、厚生年金保険の老齢厚生年金は、在職者については報酬に応じて年金額の一部または全部を支給停止している。支給開始年齢は、日本も含めて先進諸国の多くがおおむね65歳を標準年齢としてきたが、近年では65歳以降に引き上げる国が増えてきている。
日本では、国民年金の老齢年金(現在の老齢基礎年金)の支給開始年齢は当初から65歳である。これは、当初の国民年金が自営業者をおもな対象としていたため、身体的な稼得能力が低下する年齢にあわせた結果である。一方、雇用労働者については、定年退職年齢の動向や高齢者雇用政策などとの関連のもとで、支給開始年齢が引き上げられてきた。厚生年金保険の老齢年金(現在の老齢厚生年金)については、1941年(昭和16)に労働者年金保険法として制定された当初は55歳であったが、1954年(昭和29)改正で男性のみが60歳へ、1985年改正で女性も60歳へ引き上げられた。またこの改正で、厚生年金は基礎年金に上乗せする二階建て年金に再編されたことにより、老齢厚生年金の支給開始年齢も老齢基礎年金と同じ65歳に統一され、65歳前に厚生年金独自の給付として特別支給の老齢厚生年金(定額部分+報酬比例部分)が設けられた。その後、特別支給の老齢厚生年金の支給開始年齢についても、1994年(平成6)改正で定額部分が65歳へ、2000年(平成12)改正で報酬比例部分が65歳へと、いずれも経過措置を講じて引き上げられた。2020年(令和2)の時点で、すでに定額部分の経過措置は終了しており、報酬比例部分についても、男性は2025年度、女性は2030年度で終了する。
65歳支給の老齢基礎年金および老齢厚生年金ともに、60歳以上65歳前での繰上げ(減額)支給、65歳以後75歳までの間で繰下げ(増額)支給を選択することができる。繰下げ受給の対象年齢は2020年までは70歳までであったが、同年の改正により75歳までに拡大された。繰上げ減額率は1月あたり0.4%、繰下げ増額率は1月あたり0.7%であり、数理的に年金財政上中立的な率として設定されている(2022年4月1日施行)。
[山崎泰彦 2023年6月19日]
国民年金制度により支給される全国民共通の老齢年金。原則として、受給資格期間が10年以上ある者が65歳に達したときに支給される。受給資格期間は、保険料納付済期間、保険料免除期間、合算対象期間を合計した期間である。保険料納付済期間には厚生年金保険の被保険者期間を含む。合算対象期間とは、老齢基礎年金の受給資格期間には算入するが年金額の計算の基礎にはしない、いわゆる「カラ期間」である。支給開始年齢については、60歳以上65歳前での繰上げ(減額)支給、65歳以後75歳までの間での繰下げ(増額)支給を選択することもできる(70歳以後の繰下げは2022年4月1日施行)。年金額(年額)は、新規裁定者(67歳以下)の満額が79万5000円(2023年度)で、保険料の滞納期間や免除期間があれば、その期間に応じて減額される。
[山崎泰彦 2023年6月19日]
厚生年金の被保険者期間(加入期間)がある者で、老齢基礎年金の受給資格期間を満たした者に65歳から老齢基礎年金に上乗せして支給される。経過措置として65歳前に特別支給の老齢厚生年金(定額部分+報酬比例部分)が設けられているが、2020年の時点で、すでに定額部分の経過措置は終了しており、報酬比例部分についても、男性は2025年度、女性は2030年度で終了する。老齢厚生年金は、退職して被保険者資格を喪失した場合には全額が支給されるが、在職している場合には報酬によって年金額の一部または全部が支給停止される。老齢厚生年金の年金額は、「報酬比例部分+加給年金額」である。報酬比例部分の年金額は、「被保険者期間中の平均標準報酬額×乗率×被保険者期間の月数」である。平均標準報酬額は、被保険者期間中の報酬を現在の賃金水準に置き換えて算出する。加給年金額は、被保険者期間が20年以上または40歳(女性は35歳)以降15~19年ある受給権者に生計維持されている配偶者(65歳未満)や婚姻をしていない子(18歳到達年度の末日までの子、または1、2級障害の20歳未満の子)がいる場合に、定額で支給される。
[山崎泰彦 2023年6月19日]
被用者世帯の標準年金は、夫が厚生年金に40年加入し老齢基礎年金と老齢厚生年金を受給、妻が国民年金に40年加入し老齢基礎年金のみを受給する場合、2023年度で月額約22万4482円である。また、2021年の時点で高齢者世帯の所得に占める公的年金の割合は62.3%、公的年金を受給している高齢者世帯のなかで公的年金が収入のすべてを占める世帯は24.9%、80~100%未満の世帯は33.3%となっている(厚生労働省「2021年国民生活基礎調査の概況」)。
[山崎泰彦 2023年6月19日]
『厚生労働統計協会編・刊『保険と年金の動向』各年版』▽『『年金のてびき』各年版(社会保険研究所)』
年金制度において,一定年齢以上の高齢者に対して支給される年金給付。年齢のほかに退職を要件とする場合には,退職年金ということもある。企業年金や個人年金などの私的年金も普及しているが,ここでは日本の公的年金について説明する。老齢年金には,国民年金を通して支給される全国民共通の老齢基礎年金と厚生年金保険(または共済年金)による老齢厚生年金(退職共済年金)がある。
老齢基礎年金は,原則として25年の資格期間を満たした者に65歳から支給される。資格期間は,保険料納付済期間,保険料免除期間,合算対象期間を合計した期間である。このうち,保険料納付済期間には,1961年4月1日から86年3月31日までの被用者年金の加入期間のうち20歳以上60歳未満の期間も含む。合算対象期間とは,資格期間には算入するが年金額の計算の基礎にはしない〈カラ期間〉であり,任意加入の対象者であって任意加入しなかった期間のうち60歳未満の期間などである。また,資格期間には,旧制度からの円滑な移行を図るための経過措置として,生年月日や加入した制度によって15~24年の短縮措置が設けられている。支給開始年齢は原則として65歳であるが,60~64歳で繰上げ(減額)支給,66歳以降で繰下げ(増額)支給を選択することができる。年金額は年額78万5500円(1997年度)であるが,これは20歳から60歳になるまでの40年の保険料納付を条件に支給されるもので,未納期間があればその期間に応じて減額される。ただし,40年の納付条件を満たせるのは,1941年4月2日以降生まれの者(国民年金発足時に20歳未満)に限られるため,それ以前に生まれた者には,生年月日に応じて25~39年の納付で上記の満額の老齢基礎年金を支給する経過措置が設けられている。なお,保険料免除期間については,国庫負担分に相当する1/3の年金が支給される。
老齢厚生年金は,厚生年金の被保険者期間のある者で,老齢基礎年金の資格期間を満たした者に支給される。ただし,65歳以降の老齢厚生年金は被保険者期間が1ヵ月でも支給されるのに対して,65歳前の特別支給の老齢厚生年金は厚生年金の被保険者期間が少なくとも1年あることが条件になる。支給開始年齢については,1994年改正により,段階的に65歳に引き上げられ,男子は49年4月2日以後,女子は54年4月2日以後生まれの者から65歳支給になる。これにともなって,60歳台前半の特別支給の老齢厚生年金は,報酬比例部分のみの部分年金(満額年金ではないという意味の通称)に切り替えられた。ただし,障害等級3級以上の障害者や被保険者期間が45年以上の長期加入者には,従来どおり60歳から満額年金が支給される。65歳支給の老齢厚生年金は,適用事業所の在職者であっても老齢基礎年金にあわせて全額が支給される。これは,厚生年金保険の被保険者資格が65歳で喪失し,退職者として扱われるからである。一方,60歳台前半の特別支給の老齢厚生年金は,被保険者資格を喪失した退職者には全額が支給されるが,被保険者である在職者の場合については,標準報酬月額によって年金額の一部または全額が支給停止される。また,雇用保険の失業給付(最高300日支給)を受けている間は老齢厚生年金が支給停止され,雇用保険の高年齢雇用継続給付を受けている場合は標準報酬月額の10%相当の年金額が支給停止される。65歳支給の老齢厚生年金の年金額は,報酬比例の年金額に,経過的加算額や生計維持関係のある配偶者および子についての加給年金額を加算した額である。60歳支給の特別支給の老齢厚生年金の年金額は,支給開始年齢の引上げ後は報酬比例の年金額のみになるが,それまでは従来どおり,定額部分,報酬比例部分,加給年金額の合計額が支給される。報酬比例部分の年金額は,〈平均標準報酬月額×支給乗率×被保険者期間の月数×スライド率〉である。平均標準報酬月額の算出にあたっては,在職時の報酬月額を一定の倍率を乗じて現在の報酬水準に再評価し,在職中の平均額を算出する。支給乗率は生年月日別に定められ,経過措置の期間中は年齢が若くなるにつれて逓減し,1946年4月2日以後の生まれの者から1000分の7.5になる。定額部分の年金額は,〈単価×被保険者期間の月数×スライド率〉である。単価は生年月日別に定められ,1625円×1.875(1927年4月1日以前生れ)~1625円(1946年4月2日以後生れ)である。加給年金額は,厚生年金保険の被保険者期間が原則として20年以上ある者が受給権を取得したとき,生計を維持されていた配偶者,18歳の年度末までの子または20歳未満の障害の程度が1級・2級の子がある場合に支給される。配偶者加給年金額は配偶者が65歳になるまで支給され,配偶者が65歳に達した後は配偶者の老齢基礎年金に対する振替加算が経過的に行われる。
→年金
執筆者:山崎 泰彦
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…支給年齢は,従前は男女とも55歳であったが,男子は60歳に引き上げられた。61年には国民年金の創設に伴い,別種の公的年金制度間を移動した者に対して,各制度における加入期間を通算して年金を支給する通算年金制度が設けられ,厚生年金でも短期の加入者にも通算老齢年金が支給されることとなった。 65年には給付の引上げによっていわゆる〈1万円年金〉が実現し,66年からは企業年金によって,厚生年金のうち老齢年金の報酬比例部分の代行ができる厚生年金基金(調整年金)の制度が生まれた。…
…国民皆年金を実現するため,被用者年金制度(厚生年金保険および共済年金)の適用されない20歳以上60歳未満の自営業者等を対象として1959年に制定された国民年金法によって創設され,無拠出制(全額国庫負担)の福祉年金(〈福祉年金〉の項を参照)は同年11月,一定期間の加入を条件とする拠出制年金は61年4月に実施された。その後,85年改正による基礎年金の導入と2階建て年金への再編成により,86年4月から全国民を対象とする年金制度となり,2階建て年金の1階部分(基礎年金)の役割を担っている。…
…年金保険による年金額は定額部分と報酬比例部分の組合せの有無,加入期間比例制の仕組みの違い,世代による給付率の差の過渡的設定,算定基礎となる受給者本人の賃金・給与額が長期にわたるなどのため,同様の割合を示すことは難しい。95年度末の旧制度厚生年金保険老齢年金の平均額を,現役被保険者の平均標準報酬額に対する割合で示すと約53%,各種共済組合のうち最も年金額の高い組合の同様の割合は68%である。医療については,被用者保険本人は費用の8割,家族は7割であり,自己負担が2割または3割あることになるが,保険給付の対象外とされる医療やサービスがあり,それは患者の負担になることにも注意しなければならない。…
…医療保険や雇用保険(失業保険)などは単年度または短期の財政計算によって保険料が算定できるが,年金保険の場合には,一般に長期にわたって財政計算を行う必要がある。年金保険のもっとも重要な給付である老齢年金は,長期にわたる保険料の納入と一定年齢への到達が受給要件とされることから,給付費用が一定水準に増加するまでにはある程度長い期間を要する。そのため,年金保険の財政方式は幾種類かの方式のなかから選択することが可能である。…
…この公的扶助も,広義の年金の一種と考えている国もある。 年金の主要な給付は老齢年金だが,このほかに一般に障害年金と遺族年金が支給される。年金制度は,老齢,障害,死亡による所得の喪失に際して一定の年金を支給する防貧の制度で,公的扶助はすでに貧困におちいった者を事後的に救済する救貧の制度である。…
※「老齢年金」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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