日本大百科全書(ニッポニカ) 「浅貝動物群」の意味・わかりやすい解説
浅貝動物群
あさがいどうぶつぐん
Asagai fauna
福島県いわき市四倉(よつくら)町付近の海成層(浅貝砂岩層)から産出する貝化石群。1934年(昭和9)に槇山次郎(まきやまじろう)(1896―1986)によって発見された。古第三紀末に堆積(たいせき)したもので、親潮海域に生息する軟体動物の種を多く含んでいる。この地層の下位には、淡水から汽水域にかけて堆積した石炭層(石城(いわき)層)が発達し、古くから常磐炭田として開発されてきた。北海道の石狩、夕張、釧路(くしろ)などの炭田地帯からも、浅貝動物群と類似の親潮海域に生息した軟体動物化石を含む海成層の分布が知られ、幌内頁岩層(ほろないけつがんそう)および幌内動物群と命名されている。この生成期は浅貝動物群と同時期とされてきた。北海道の炭田地方にあっても、幌内層の下位には、古第三紀の始新世から漸新世(ぜんしんせい)にかけての淡水ないし汽水域に堆積した石狩夾炭(きょうたん)層が広く分布し、炭田として開発されてきた。さらに、北九州の炭田地域にも、浅貝動物群と同時期の海成軟体動物化石を含む地層が認められ、芦屋動物群と命名されている。そのため、日本列島の古第三紀後期(漸新世)には、浅貝動物群や幌内動物群でみられるような、冷水塊を主とする海域が、日本列島各地に進入したことが考えられている。この海進によって堆積した海成層は、関東山地の秩父(ちちぶ)、内山、下仁田(しもにた)などの各地や、房総半島(保田(ほた)層)、静岡県南部(瀬戸川層群)、和歌山県(牟婁(むろ)層群)、高知県および宮崎県南部などの各地からも発見されている。
また、アラスカや北アメリカ西海岸北部などにも同様の化石動物群を含む海成層が分布しており、北太平洋地域の地史や古生物地理を考えるための重要な資料となっている。この動物群には、Acila eximia(クルミガイ)、Portlandia tokunagai(ソデガイ)、Venericardia laxata(フミガイ)、Clinocardium asagaiensis(イシカゲガイ)などの二枚貝や、Natica ezoana(タマガイ)、Neptunea ezoana(エゾバイ)などの巻き貝の化石種が含まれる。
[大森昌衛]