改訂新版 世界大百科事典 「海水ウラン採取」の意味・わかりやすい解説
海水ウラン採取 (かいすいウランさいしゅ)
海水中に存在するウランを商業的に採取すること。海水1t中には平均3mg(平均濃度3ppb)程度のウランが含まれており,地球全体では海水中のウランの総量は約45億tに及ぶといわれる。これは地中に存在するウラン鉱の推定埋蔵量よりもはるかに多く,採取が経済的に可能であれば,ウランの原料事情は大きく変わることになり,1960年代より各国で研究が開始された。しかしこの採取にはいくつかの問題点がある。最も大きな問題は,ウランの濃度がきわめて希薄なため,大量の海水を処理しなければならないことである。また海水中ではウランは炭酸ガスと結合し安定な炭酸ウラニルという錯塩を形成していると考えられているが,炭酸ウラニルは化学的に安定であり,ウランを単体としてとり出すことがむずかしい。
採取方法としては,溶媒抽出法,共沈法,浮選法,吸着法,生体物利用法などが考えられているが,このうち最も工業化の可能性が高いのは吸着法であるといわれる。吸着法では,海水と吸着剤(たとえばチタン酸など)を接触させてウランを吸着させる。このウランを重炭酸ナトリウムなどの炭酸塩で脱着させ,イオン交換法やイオン浮選法によってウランを回収し2000~3000ppm程度の濃度とする。その後はウラン鉱石と同様の方法で処理することができる。日本では通産省資源エネルギー庁が1975年から金属事業団に基礎研究を開始させ,吸着法によるパイロットプラントを83年に建設,84年から運転試験を実施した。
執筆者:大久保 忠恒
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報