改訂新版 世界大百科事典 「涅槃仏」の意味・わかりやすい解説
涅槃仏 (ねはんぶつ)
釈迦が涅槃に入った(入滅)姿をあらわす臥像で,右脇を下にし,両足を上下に重ねて眠る姿であらわされる。彫像と画像(涅槃図)があり,彫像ではインドのアジャンター石窟,クシナガラ,中国では敦煌石窟などに巨大な涅槃像がある。日本では法隆寺五重塔の塑像が最も古く,次いで鎌倉時代の木彫仏や金銅仏がある。釈迦は29歳で出家し6年間の苦行の末に悟りを開いて仏陀となり,以来四十数年間ガンガー(ガンジス)川流域から北インドの各地で教えを説いた。しかし齢80をむかえて急速に老衰し,霊鷲山をあとに故郷のカピラバストゥへ向かった。クシナガラの近くでチュンダに供養された食事で中毒を起こし,激しい下痢をともなって苦しんだが,苦痛をこらえてクシナガラに入った。弟子の阿難に,サーラ双樹の間に北枕に床を敷かせ横になり,禅定に入ったまま入滅した。仏弟子や在俗の人々もその周囲に集まって嘆き悲しんだが,その情景はガンダーラ出土の半肉の石彫像などにみられ,この流れを汲む涅槃図では諸菩薩,仏弟子,国王や大臣,俗人さらには鳥獣までもが慟哭する姿をみせ,生母摩耶夫人が忉利天(とうりてん)からはせ参じ,遠くから悲しみの視線を送るさまなどを描いている。これら彫像,画像は2月15日の涅槃会の本尊として礼拝される。
執筆者:光森 正士
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報