消化管の放射線画像診断

内科学 第10版 「消化管の放射線画像診断」の解説

消化管の放射線画像診断(MDCT,MRI,PET)(消化管の画像診断学)

(4)消化管の放射線画像診断(MDCT,MRI,PET)
 消化管精査の第一選択は内視鏡や消化管造影であるが原則として消化管内腔からの観察に限定される.computed tomographyCT),magnetic resonance imaging(MRI),positron emission tomography(PET)などの断層像は消化管の管腔外の情報を提供する.管腔内と管腔外からの情報をあわせることにより適切な診断が可能になる.CT,MRI,PETはいずれも画像の成り立ちが異なるので,特徴を理解して適切に運用することが必要である.
a.MDCT
 CTはX線を用いた画像検査法で,体の周囲を検出器が回転することにより重なりのない断層像を得ることが可能である.1990年代後半より,それまで検出器が1列であったのに対して,多列の検出器を備えるmulti-detector row CT(MDCT)が臨床に用いられるようになり,スライス厚みが薄い画像を高速かつ大量に得られるようになった.これにより広い撮影範囲を高い空間分解能を備えたデータとして短時間で収集できるようになり,上腹部から骨盤内まで上下に広く分布している消化管全体を精密に観察することができるようになった.
 CTでは体軸に垂直な軸位断像が得られるが,MDCTにより得られた空間分解能が高いデータを用い,ソフトウェア上で任意方向の断面による観察が可能である(Parrish,2007).特に三次元的に複雑に走行している消化管の連続を把握するためには任意方向からの観察が必要である.また前処置により消化管内部の残渣を最小限にして,空気により消化管を拡張することにより腸管内部の観察がより容易になる.空気と消化管のCT値の差が大きいため,空気と接する消化管壁の病変は明瞭に描出される(図8-1-14).
 拡張した消化管内に視点を設定して仮想的に内視鏡画像を作成することも可能である.仮想内視鏡のための撮影は実際の下部内視鏡検査よりも短時間かつより負担が少なく施行することが可能であり,一部の施設ではスクリーニングとして用いられている.その一方,CTはX線を用いるため電離放射線被曝が避けられない.CTはX線写真よりも被曝量がはるかに多く,患者の被曝がより少なくなるように適切な運用を行う必要がある.
b.MRI
 MRIは水素原子核の核磁気共鳴現象を利用して画像化を行う.CTと比較すると撮影時間が長く,消化管の蠕動を起因とするアーティファクトが惹起されやすい.高磁場装置でありペースメーカや金属が体内にあると撮影は行えないなどの制限がある.その一方,さまざまなパラメータの設定やパルスシーケンスの組み合わせによりT1強調画像,T2強調画像,脂肪抑制画像などのさまざまなコントラストを得ることが可能で,占拠性病変では内部の性状についてCTよりもより詳細な情報を得ることができる.拡散強調画像では水分子の拡散が制限されている部位を選択的に描出することが可能であり,炎症性腸疾患の描出を行うことが可能である(図8-1-15).この方法により通常はほかの手法では精査を行うことが容易ではない小腸の炎症性病変の描出が行える(Kiryu, 2009).また,高いコントラスト分解能により,痔瘻のようにCTでは描出が良好ではない病変の描出においてもMRIでは明瞭に描出することが可能である(図8-1-16).CTに比較して電離放射線による被曝がないので,対象が若年者で繰り返して検査を行う必要がある疾患においては,積極的な運用が行われることもある.
c.FDG-PET
 FDG-PETは18Fで標識したグルコースと類似した構造の18F-fluoro-2-deoxy-D-glucose(FDG)を用い,病変の糖代謝亢進を画像化する.炎症性病変のほか,多くの腫瘍性病変は嫌気性糖代謝を活発に行うのでFDG-PETにより病変の糖代謝の画像化が可能になる.CTやMRIに比較して病変の検出はすぐれているが,空間分解能は劣っており,PET単独では小さい病変の評価には適さないが,PETとCTを同一の装置で撮影を行うPET-CTによりCTの情報をもとに空間情報を向上させることが可能である(Delbeke, 2006).FDG-PETの保険適応は,消化管領域では早期胃癌を除く悪性腫瘍であるが,腫瘍の描出力は発生部位によって異なる.食道癌や胃癌の原発巣の検出率は高くなく,結腸癌の原発巣の検出率は高い.遠隔転移については発生部位にかかわらず,検出率は高い.また,病変の局所再発についてもFDGの明瞭な集積が画像化される.正常消化管にもFDGの集積がしばしばみられるため,病変との区別に注意が必要になることがあるが,遅延像において集積が移動することにより正常腸管を区別することが可能な場合がある.コントロール不良な糖尿病症例では病変へのFDGの集積が低下するので注意が必要である.放射性物質を用いるので被曝があるが,少なくともPET単独ではCTよりも少ないと考えてよい.[桐生 茂・大友 邦]
■文献
Delbeke D, Coleman RE, et al : Society of Nuclear Medicine procedure guidelines for tumor imaging using FDG PET/CT 1.0. J Nucl Med, 47: 885-895, 2006.
Kiryu S, Dodanuki K, et al : Free-breathing diffusion-weighted imaging for the assessment of inflammatory activity in Crohn's disease. J Magn Reson Imaging, 29: 880-886, 2009.
Parrish FJ : Volume CT: state-of-the-art reporting. AJR Am J Roentgenol, 189:528-534, 2007.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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