内科学 第10版 「消化管の超音波診断」の解説
消化管の超音波診断(消化管の画像診断学)
a.概念
内視鏡やX線造影が消化管の内腔面を観察する方法であるのに対し,超音波は消化管壁の断層像を描出することで貫壁性の変化を評価する手法である.ほかの断層診断法としてX線CTやMRが存在するが,超音波はその簡便性とともに空間分解能やリアルタイム性においてこれら両者をはるかに凌駕する診断法である.消化管の超音波診断は消化管の管腔内から走査する方法(超音波内視鏡)と体表から走査する方法(体外式超音波)に大別されるが,本稿では後者について述べる.
b.適応疾患
通常体外式超音波で用いられる中心周波数は3〜8 MHz程度であることから,平坦な粘膜内癌のような微細病変の描出は困難である.一方進行癌などある程度の壁肥厚を呈する疾患であれば超音波のよい適応となり,その描出能・診断能ともにおおむね良好である.特に急性胃粘膜病変,急性虫垂炎,大腸憩室炎,一過性型虚血性大腸炎などの急性炎症性疾患における診断能は高く,非侵襲的診断法としての有用性が高い.またリアルタイムかつ生理的な画像診断法であることから,消化管における運動機能の評価にも用いられる.
c.方法
通常前処置は施行しないが,胃癌の深達度評価や胃粘膜下腫瘍の評価においては約200 mL程度の飲水を行う.消化管の立体解剖を理解することが重要であるが,腹部食道~十二指腸,上行ならびに下行結腸は解剖学的位置に個体差はないため,まずこれらを確実に同定するように心がける.原則的に腹部食道は腹部大動脈と肝左葉の間を走行し,十二指腸は膵周囲を取り巻くように後腹膜に固定され,上行結腸と下行結腸は腹腔内で最外側かつ最背側に存在している.
d.正常な消化管の超音波像
部位にかかわらず,体外式超音波上消化管は内腔側より順に第1層(高エコー,境界ならびに粘膜層の一部),第2層(低,粘膜ならびに粘膜筋板),第3層(高,粘膜下層),第4層(低,固有筋層),第5層(高,漿膜あるいは外膜ならびに境界エコー,しばしば周囲脂肪織との分離が困難)の5層構造を呈する(図8-1-11).壁の厚みは壁の伸展状況(内容物の多寡)により異なるが,おおむね2~5 mm程度である.
e.画像解析
異常所見の存在部位と分布,壁の層構造,壁の硬さ(エラストグラフィを用いた評価あるいは圧迫や飲水による可変性),壁外の変化(脂肪織の肥厚など),さらには蠕動の状態やドプラを用いて血流などを評価する.特に層構造の観察は重要であり,腫瘍性疾患においては浸潤の程度や主座の決定(図8-1-12),炎症性疾患では病変の活動性評価や鑑別診断に役立つ(図8-1-13).
f.限界と欠点
基本的に壁肥厚をとらえる手法であることから,先述したように早期癌など肥厚に乏しい疾患における描出率は低い(既知の病変に対する深達度評価には有用).また検者の技量と被検者の体格に影響を受ける点も大きな欠点であり,今後手技の普遍化ならびに普及とさらなる機器の改良が望まれる.[畠 二郎]
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報