翻訳|greenhouse
植物の栽培を目的とし、骨組みした外側をガラスやプラスチック、またはビニルシートで覆ってある建物で、暖房設備のあるものをいう。暖房設備のないものは冷室または無暖房温室という。温室はもともと冬の低温期に植物を寒さから保護し、あるいは生育を促進させることを目的とした施設であるので、栽培する植物に適した生育環境を人為的につくりだす設備であるといえる。したがって寒さに弱い熱帯性の植物あるいは温帯性の植物などそれぞれに適した栽培温度が必要で、それには太陽の光、温度、湿度、水分を自由に調節できることが理想である。温室は使用目的によって規模、構造、形状などが異なる。特殊な例としては人工気象室がある。これは研究実験室として使用するもので、冷暖房、照明、日長などの調節ができる完全栽培施設である。温室は建物の周りをガラスで覆っていることから一名ガラス室ともよばれる。ビニルハウスも広義には温室に含まれるが、一般的には温室とビニルハウスは区別される。
[堀 保男]
ローマ時代、野菜などの栽培のために石穴や室(むろ)を利用して人工的に保温したといわれている。保温し栽培する温室の最初といえるだろう。本格的な温室としては1619年にドイツのハイデルベルクに建てられたものが最初である。1694年にはイギリスの薬用植物園でガラスを使った温室が建設された。温室ブドウの栽培ではイギリスのハンプトン・コートが有名で、1768年にブラックハンブルグ種を植え、200年以上も前の親株が現在も生存している。
日本では、江戸時代後期に油を引いた障子紙で鉢物を保温している絵があるところから、いまのフレーム的に利用されたものと推定される。ガラスを用いた温室は1870年(明治3)に東京・青山の開拓使の園中(現在の青山学院大学所在地)に建てられたのが最初とされる。1877年にはイギリス人のジェームスが横浜の邸内に趣味温室をつくった。生産温室としては、1879年に横浜の脇(わき)金太郎が西洋人の指導のもとに花卉(かき)温室をつくり西洋草花を栽培した。1882年にはイギリス人のジャーメルやドイツ人のベーマーLouis Boehmerらが営利生産を目的に大規模温室を建て、西洋草花を栽培し販売し始めた。また、1890年代に、アメリカとの交流が盛んになると、ラン類やサボテン類がたくさん輸入され、温室の建設が急激に増えた。大規模で集団化した温室は1920年(大正9)ごろからで、専門的にバラやカーネーションあるいは小規模ながらもブドウの栽培が行われてきた。現在のような大規模な野菜栽培が行われるようになったのは、1955年(昭和30)ごろから盛んとなった大型ビニルハウスが始まりで、大型ガラス温室に移行したのは1965年前後からである。
[堀 保男]
温室は利用目的別(営利生産温室、観賞温室、家庭用温室)あるいは屋根型によって分類することができる。
[堀 保男]
農家や園芸専門店が、トマト、キュウリなどの野菜や、バラ、カーネーション、シクラメン、ラン類などの花卉、ブドウ、モモなどの果樹、観葉植物の鉢物を生産栽培する温室で、規模が大きく、大型単棟、連続棟のものが多い。
[堀 保男]
公私立植物園、農場、学校などで、観賞展示、試験研究用に多種多様の植物を栽培、展示する温室で、目的により規模もさまざまあり、温室の形にもくふうが凝らされ、内部、外観ともに美的要素が取り込まれている。
[堀 保男]
一般家庭で、熱帯性植物や寒さに弱い植物を栽培する際に用い、寒さから守り観賞に供するための温室をさし、とくに趣味的な面が強いので、形や大きさもいろいろある。最近ではアルミ材、曲面ガラスの普及から、母屋に接続したサンルーム兼用の温室や、室内装飾も兼ねた小型の観賞温室も多い。
[堀 保男]
両屋根、片屋根、不等辺屋根(スリークォーター式ともいう)、丸屋根(ドーム型)、駒(こま)型などがある。
[堀 保男]
基礎や建築構造が一般の建物と同じように風雪に耐える設計であることが必要であるので建設費も高くなる。骨組は被覆材の重みに耐え、しかも日射の遮断が極度に少ないことが条件となる。柱、合掌(がっしょう)、母屋(もや)、垂木(たるき)などの材料には木材、鉄骨、アルミ合金が用いられ、また、これらを複合的に組み合わせたものが多い。屋根材にはガラスのほか、透明度や保温を考慮し改良されたプラスチック板も利用されつつある。一般に屋根ガラスは3ミリメートル、横ガラスは2ミリメートルのものを使用する。
ガラスやビニルシートで覆った施設内の温度は、日中には太陽光線を受け外気よりも高くなる。これは、地面が吸収した熱を放射し、また熱が外に逃げにくいためである。これを温室効果とよび、作物によっては換気が必要となる。夜間は外気温が低いため、熱は地面から離れ被覆材を経て逃げる。したがって冬季の室温維持には、暖房とあわせて、内部をポリエチレンシートなどで二重にすると、保温効果が高められる。最近は室内の温度管理とともに風の流れなど微気象の研究も進み、マイコン利用による強制換気設備もつけられるようになってきた。
[堀 保男]
(1)場所 日当り、通気、排水のよい場所が最適で、とくに冬の北風は避けられる所がよい。また、梅雨時に室内に水が流入しない場所であることがだいじである。
(2)棟の方向 棟の方向には主として東西と南北がある。棟の方向によっては、冬の日照を十分に取り込むことができない場合がある。熱帯性の植物などには冬季の日照はなくてはならないものである。大型の温室の場合は南北棟にしたほうが、光の入射が平均する。家庭での小形のものは東西棟でも建物や作物の影響が少ない。
(3)面積 温室はフレームと異なり、中に入って管理することが必要なので、通路、加温設備のほか、棚(たな)(ベンチ)なども設置することを加味して決定する。金属性の組立て式のものは規格があるので、それにあわせたほうが安価に建設できる。
(4)構造 ガラスやプラスチック屋根では、台風や雪害に耐えることがだいじであるので、骨組には筋かいを入れる。夏季にも室内を使用するには、高温対策として、横窓、天窓などが十分に開き、換気ができることがたいせつである。
(5)暖房 温室内の暖房法には、直接方式と間接方式がある。直接方式は、ストーブを用い、石油、ガス、石炭など(主として石油類)を燃やし、その熱を吸い出すか送り出すことによって暖房する。また例は少ないが電気ヒーターを利用したものもある。これらは一般に温風暖房とよぶ。この方式は、効率はよいが、室内がやや乾燥する。間接方式は、石油や石炭などを燃料に、温湯または蒸気をつくり、温室内に配管された放熱管で循環させ暖房する。一般に温湯暖房、蒸気暖房とよんでいる。この方式は、室内温度が平均化し、温度管理がしやすい。
小規模の家庭温室の暖房には、電気温風機や石油ストーブを活用するとよいが、とくに石油ストーブは温室用に開発された煙突のあるものを使用しないと、燃焼ガスや不完全燃焼により有毒ガスが発生して、室内植物が大被害を受けることがある。
冬の温度管理としては、夜間の温度変動が少なく、ある程度一定したほうがよい。極度に高温を必要とする熱帯性植物以外のものは、平均して10~13℃あれば十分越冬する。
(6)灌水(かんすい)施設 温室内は四季を通じ乾燥しやすいため、灌水施設は植物管理に欠くことができない。とくに冬季、熱帯性草花には冷水を嫌うものもある。この場合は、一度貯水し室温になじんだ温水をやるとよい。規模によっては噴出、散水、噴霧の各式や自動灌水装置などの設備が設けられている。
[堀 保男]
『板木利隆著『施設園芸 装置と栽培技術』(1983・養賢堂)』
加温設備をもつガラス張りの植物栽培用の建物。これに対してビニルやポリエチレンフィルムを張った植物栽培用の建物をハウスという。ハウスは1年のうちのある特定の期間だけ利用し,寿命も数年であるが,温室は1年を通して利用する半永久的な施設である。温室は屋根の形から片屋根式,スリークオーター(不等辺屋根)式,両屋根式,連棟式,ドーム型などに分類される。温室を建てる場合には,作物の種類や利用目的によって形や大きさを決め,木,鉄,アルミニウムなどで骨組みを作る。温室の加温方法には蒸気暖房,温湯暖房,温風暖房などがあり,大面積の温室では蒸気暖房,小面積の温室では温湯暖房を用いることが多い。温風暖房は設備も小型で移動できるという利点があるので,ハウスでの利用は多いが,温室ではあまり利用しない。
温室は熱帯・亜熱帯植物を越冬させるために利用するだけでなく,雨の多い地帯で栽培が困難なヨーロッパブドウやマスクメロンの栽培にも利用する。またイギリスやオランダなど中部ヨーロッパでは夏が短いので,トマトやキュウリを夏に露地で栽培しても,収穫期間が短く収量も低い。そこで,これらの国々ではトマトやキュウリなどの夏作にも温室を利用している。これに対して日本では夏の気温が高すぎるために,熱帯植物,ヨーロッパブドウ,マスクメロン以外の作物を夏に温室内で栽培するのは難しい。1年を通して利用し,高い収益をあげることができるならば,温室のほうが有利であるが,晩秋から早春にかけて作物を寒さから保護し,生長させるために利用する場合には,建設費の安いハウスの方が有利である。しかし近年ではハウスが大型化して建設費が増え,ビニルの張替えにも手間がかかるようになったため,一部ではハウスから温室への転換が進んでいる。また1年を通して利用するために,暖房だけでなく冷房設備をもつ温室も作られている。なお近年,アルミニウムを骨組み材料とした両屋根式の小型温室が家庭温室として市販されている。
執筆者:杉山 信男
ローマ時代にすでに雲母板でふたをした温床を用いて皇帝ティベリウスに四季を通じてキュウリを献じたという故事があるが,これは移動式の小型のものであった。一般に温室は固定式の恒久的な建築を意味し,18世紀ヨーロッパに多く建てられたオランジェリーorangery(フランス語ではオランジュリーorangerie)を源流とする。その構造は北側を壁にし,南側に大きなアーチ形の窓を並べ,スレートあるいは瓦葺の屋根を架けたもので,オレンジや地中海の果樹を育てた。1684年にイギリスのチェルシー薬草園に設けられたものが,オランジェリーの最初の例といわれる。19世紀初頭になり屋根もガラス張りとし,中央にドームを架けたものが現れた(ファウラーCharles Fowler設計のロンドンのサイアン・ハウスの温室(1827)など)。これと別に植物の促成栽培を主目的として,北側に壁を立て,南傾斜のガラスの差掛け屋根をつけ,内部のひな段状の台に鉢植えの植物を置く細長い温室も現れた。少し遅れて,植物を直植えとした全面ガラス張りの鋳鉄構造の温室も大植物園に作られた(バートンDecimus BurtonとターナーRichard Turner設計のロンドンのキュー王立植物園のシュロ用温室(1848)が代表例)。ガラス屋根の形状は変化に富むが恣意(しい)的なものではなく,たとえばドームは有害な結露の滴下を防ぐためであり,折板面は朝夕の低い陽光をとらえるためであった。また十字形の平面,中央のドームも,それに合わせて丈の異なる植物を栽培するためであった。19世紀の温室は当時の新材料である鋳鉄とガラスを全面的に使用する建築技術の先端を示したので,博覧会会場(クリスタル・パレスなど),駅舎覆屋,百貨店の吹抜けのガラス天井,ガラス張りのアーケードなどに応用された。
日本における温室の起源は,江戸時代後期の観賞用植物の開花促進のための行灯窖(あんどんむろ)(油紙張りの窖に火鉢を置く)に求められる(東京大学付属小石川植物園内にこの種の遺構がある)。近代的温室は1870年(明治3)に東京の青山の開拓使本庁の園内に設けられたものが早い例とされる。大邸宅付属温室としては,大隈重信邸で客の供応にも用いたものが有名。大型温室は近年取壊しが多く,現存最古のものは名古屋市東山動植物園内の洋風温室前館(1936)である。
執筆者:鈴木 博之
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出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
…当然,施入物,什物,資財の倉や監理所(正倉院)も置かれ,仏寺機構は官衙と類似する。食作法や炊事の食堂院,清浄のための浴室(温室)や厠(かわや),法衣や建築物の維持管理,仏像仏画の製作や経典書写の作業所,花果蔬菜の苑院や花園院,雇民や奴婢の賤院など,寺地と施設を備えるようになった。このような多角的機能を備える内容と形式が朝鮮三国を経て日本に伝えられた。…
…湯をみたした浴槽に身体をひたす温湯浴の入浴設備のある建物のこと。奈良時代の寺院の資財帳にはすでに温室院,温室,湯屋などの建物名がみられ,入浴施設としての湯屋であったと考えられる。これらの古代の湯屋の建物は残っていないが,東大寺,法隆寺などには鎌倉時代以後に再建された大湯屋が残っており,東大寺には釜のような形の鉄製の湯槽(ゆぶね)が,法隆寺には厚板を組んで作った木製の湯槽が中央に据えてある。…
※「温室」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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