精選版 日本国語大辞典「温」の解説
ぬる・い【温】
〘形口〙 ぬる・し 〘形ク〙
① ひどく熱くはなく、少し温かいさま。なま温かい。
※万葉(8C後)一六・三八七五「出づる水 奴流久(ヌルク)は出でず」
※歌舞伎・成田山分身不動(1703)一「大団扇提げ来り、さんざんに焚き立つる。中より、ぬるいわぬるいわと云へば肝を消し」
② 速度が遅いさま。ゆるやかだ。のろい。まだるい。
※書紀(720)神代上(兼方本訓)「上瀬(かみつせ)は是れ太(はなは)だ疾し。下瀬(しもつせ)は是太だ弱(ヌルシ)」
※源氏(1001‐14頃)若菜下「風ぬるくこそありけれとて、御扇おき給ひて」
③ 機敏でないさま。きびきびしていない。間が抜けている。おっとりしている。
※源氏(1001‐14頃)若菜下「心の、いとぬるきぞくやしきや」
※浄瑠璃・小野道風青柳硯(1754)四「ヱヱ温(ヌル)い頬付(つらつき)」
④ ひかえめであるさま。不熱心だ。冷淡だ。
※源氏(1001‐14頃)若菜上「世のおぼえの程よりは、うちうちの御心ざしぬるきやうにはありけれ」
※こんてむつすむん地(1610)二「人ぬるくなりはじむるときは、わづかのしんらうをもおそれ」
⑤ 物足りないさま。軟弱だ。頼りない。
※咄本・昨日は今日の物語(1614‐24頃)上「さる人、念仏まうしはいかうぬるいといわれた」
※浮世草子・西鶴織留(1694)三「殊更楊弓、官女の業なり。いかにしても大男の慰み事にはぬるし」
ぬる‐げ
〘形動〙
ぬる‐さ
〘名〙
ぬく・い【温】
〘形口〙 ぬく・し 〘形ク〙
① 気候や温度が程よく気持がよい。あたたかい。《季・春》
※名語記(1275)三「あたたかなるを、ぬくしといへる、ぬく、如何」
② 金銭を多く持っている。裕福である。
※雑俳・あふむ石(1839)「笑は高々・隣へぬくひ冬をみせ」
③ 鈍い。ぐずである。愚かである。のろまである。
※俳諧・当流籠抜(1678)「ねばねばと柳は緑蛤に〈宗旦〉 談義はぬくひ波よする磯〈木兵〉」
ぬく‐さ
〘名〙
ぬくま・る【温】
〘自ラ五(四)〙
① あたたまる。あたたかくなる。ぬくとまる。ぬくもる。ぬくむ。
※龍潭譚(1896)〈泉鏡花〉九つ谺「わが鼻は、いたづらにおのが膚にぬくまりたる、柔き蒲団に埋れて、をかし」
② 金銭などが手にはいり豊かになる。ぬくもる。
※あたらよ(1899)〈内田魯庵〉「今の良人も石倉配下に奔走して運動費に煖(ヌクマ)った事もある」
ぬくも・る【温】
〘自ラ五(四)〙
① =ぬくまる(温)①
※名語記(1275)九「ぬくもる、如何。夏くるはあたたかになるよしの義也」
※浮世草子・好色一代男(1682)四「まだ身もぬくもらず目もあはぬ内に」
② =ぬくまる(温)②
※浄瑠璃・男作五雁金(1742)江戸本町「元手いらず八十五両暖(ヌクモ)りをった」
ぬくと・い【温】
〘形口〙 ぬくと・し 〘形ク〙 あたたかい。ぬくい。《季・春》
※滑稽本・東海道中膝栗毛(1802‐09)五「めいぶつまんぢうのぬくといのをあがりまアせ」
ぬくと‐さ
〘名〙
ぬくもり【温】
※俳諧・独吟一日千句(1675)第四「ぬくもりもさめぬ付さし月見酒 刈蕎麦かきや宿のもてなし」
ぬくと・める【温】
〘他マ下一〙 あたためる。ぬくめる。
※俳諧・江戸筏(1716)地「列卒の余寒に鏡うちぬく 仏法でまだぬくとめる岩の上〈青峨〉」
※人情本・明烏後正夢(1821‐24)初「まづ、私が懐中にぬくとめて居にしなされ」
ぬる・める【温】
〘他マ下一〙 ぬる・む 〘他マ下二〙 ぬるくする。湯などの温度を下げる。適当な温度にする。
※俳諧・六百番誹諧発句合(1677)春一「若水を少ぬるめてかくるにや」
ぬく・める【温】
〘他マ下一〙 ぬく・む 〘他マ下二〙 あたためる。あたたかくする。ぬくとめる。
※日葡辞書(1603‐04)「トリ タマゴヲ nucumuru(ヌクムル)」
ぬく【温】
〘名〙 (形容詞「ぬくい」の語幹から) 人をののしっていう語。のろま。ばか。とんま。
※咄本・一休関東咄(1672)中「其ときかのおぬく申けるは」
おん ヲン【温】
〘名〙 (形動) あたたかなこと。また、そのさま。また、おだやかなさま。
※史記抄(1477)一四「沈は温也、実也」 〔論語‐述而〕
ぬく・し【温】
〘形ク〙 ⇒ぬくい(温)
ぬくと・し【温】
〘形ク〙 ⇒ぬくとい(温)
ぬる・し【温】
〘形ク〙 ⇒ぬるい(温)
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報