翻訳|stove
放射熱および対流熱で部屋を暖める器具をいう。
暖房や炊事の歴史は野外のたき火から始まって、覆いのない炉に移行し、やがて西欧では上を閉じたストーブ(暖炉)や料理用レンジ(かまど)へと発展していった。日本にはドイツや北欧で発達したカッヘル・オーフェンが江戸時代すでに置き暖炉として紹介され、カッヘルまたはカッペルなどと称されていたという。1856年(安政3)に箱館(はこだて)でカッヘルをモデルにしたものがつくられたという記録(『北蝦夷地御用留(きたえぞちごようどめ)』)があり、国産ストーブの第1号とみなされている。明治から大正にかけては、外国製ストーブが次々に輸入され、国内でもこれを模倣したストーブが多数つくられるようになった。当時のストーブは鉄板や鋳物製で、燃料は主として薪(まき)か石炭などであった。ガスが燃料として使われるようになったのは1855年にドイツ人ブンゼンがブンゼンバーナーを発明してからである。その後ブンゼンバーナーで鉄板や耐火物を赤熱して放熱体とする各種の放射式ガスストーブが考案され、日本にも1900年(明治33)前後に輸入されている。しかし、ガスの供給はまだ数都市のみで、用途も照明と動力用であったため、ごく一部で使用されたにすぎなかったという。電気ストーブは明治末期に輸入され、大正初期には国産品もつくられたが、ようやく電灯が普及したころで電気料金が非常に高く、庶民には手の届かないものであった。大正中期から第二次世界大戦が始まるまでは国内でもストーブの研究、開発が進み、北海道や官公庁、学校、病院、事業所などで石炭ストーブが広く使用されるようになった。しかしながら日本の住宅構造は、開放的ですきま風が入りやすく、室内暖房をしても費用のわりには効果的でないため、依然として、いろり、こたつ、火鉢などで暖をとる家庭が多かった。第二次世界大戦後は急速な経済成長を通じて、所得水準が上昇し、生活様式も洋風化してきた。アルミサッシや断熱材が普及して住宅の気密性が高まるとともに、室内の空気を暖める対流暖房が中心となり、ストーブは家庭の必需品として欠かせないものになった。
最近のストーブは、技術の進歩に伴って燃焼性、熱効率、安全性、操作性などが一段と向上し、マイクロコンピュータでの室温調節や異常時に安全装置が作動する制御機能をもたせるなど、さまざまな先端技術を導入したものが多くなっている。ストーブの種類は、燃料、給排気方式、放熱方式などによって区分される。
[正木英子]
石油ストーブ、ガス(都市ガス)ストーブ、LPガス(プロパンガス)ストーブ、電気ストーブに分類される。家庭用で石炭やコークス、薪などを使用するものはほとんどない。燃料費は灯油がもっとも安く、ついで都市ガス、LPガスは多少割高であり、電気はかなり高くつく。したがってコストの安い石油ストーブの需要が多く、普及率も高い。
[正木英子]
燃焼用の空気を室内からとり、燃焼排ガスを室内に排出する方式。部屋の空気が汚れやすく、酸欠になると不完全燃焼して一酸化炭素が急激に発生する危険があるので、十分に換気しながら使用しなければならない。燃焼排ガスの浄化装置付きもあるが、完全に除去されるわけではないので過信は禁物である。
(1)放射型 反射板によって前面に熱を放射するもので、反射型ともいわれる小型ストーブ。このタイプは前面を効率よく暖めるが、室温の上昇がやや遅く、床面に比べて天井付近の温度が高くなるなどの温度むらも大きい。サーキュレーターや扇風機で室内の空気を循環させると暖房効率はアップするが、どちらかといえば狭い部屋での使用に向く。大きな部屋またはすきま風の入りやすい場所では、局所暖房に使うとよい。手軽で移動しやすく、価格も安い。このほかに、加熱された空気を自然に対流させる自然対流型もあるが、小型のものでは放射型石油ストーブがもっとも普及している。
(2)強制対流型 器具の本体に内蔵してあるファンによって、加熱された空気を強制的に対流させるもので、一般にはファンヒーターといわれている。なかでも石油ファンヒーターの需要が圧倒的に多い。室温の上昇が速く、部屋全体の温度が速く平均化する。しかし、酸素の消費量が多く、燃焼排ガスもファンによって室内に対流されるので、換気にはとくに注意を要する。JIS(ジス)(日本産業規格)の「強制通気形開放式石油ストーブ」(JIS S2036)では、石油ファンヒーターの安全確保のために、燃焼状態が悪化すると自動的に電源が切れたり、灯油の供給がストップして消火するなどの不完全燃焼防止装置の設置を義務づけている。移動可能だが、かなり重い。
[正木英子]
給排気筒を屋外に出し、ファンによって強制的に給排気を行う方式。燃料は灯油だが、熱交換器で暖められた空気だけを温風にして室内に強制対流させるので、部屋の空気が汚れず、クリーンなストーブである。室温の上昇が速く、温度むらも少ない。FF式石油温風ヒーターともいわれている。ただし配管するなどの据え付け工事が必要であり、設置場所が固定され高価である。
このほかに自然排気式(ポット式)の石油ストーブがある。これは燃焼用の空気を屋内からとり、燃焼排ガスを排気筒(煙突)から屋外に排出する大型ストーブで、寒冷地を中心に使用されている。また燃焼用の空気を屋内からとり、燃焼排ガスを排気ファンを用いて強制的に屋外に排出する強制排気式もある。
[正木英子]
暖房器具のうち,一般には移動可能なものをいう。英語stoveの語源は暖められた部屋の意で,こんろやかまどのことも指す。日本では室内の暖房としてはいろり(囲炉裏)が長い間用いられ,火おけ,火鉢,あんか,こたつなどは手足を局所的に暖めるものにすぎなかった。幕末以後は石炭ストーブが輸入されるようになり,1873年(明治6)には東京神田の増田という人が国産ストーブを発売した。明治30年代に入るとガスストーブも国産され,1914年には京都電灯が電気ストーブを製造発売した。石油ストーブも明治時代から使われ,国内でも生産されたが,いずれもぜいたく品であった。第2次大戦中は,石油の統制や物資不足のためストーブ類は生産されなかった。52年に石油統制が撤廃され,火力の強い石油ストーブがもてはやされるようになった。現在は,石油ストーブ,電気ストーブ,ガスストーブの順で普及している。
電気ストーブは,電気抵抗の熱を利用するもので,出た熱をすべて室内に放出でき,取扱いも簡便であるが,電気のエネルギーを熱として用いる点では効率が悪い。その他の石油やガスを燃料とするストーブは,燃焼のため空気中の酸素を消費し,炭酸ガスを出すほか,多少とも不完全燃焼による有害な一酸化炭素を出すため,換気に注意が必要である。石炭ストーブのように煙突をつけると,せっかくできた熱の半分以上が排出されてしまい,費用効率が悪い。この点を解決するためのくふうが昭和40年代後半から行われ,燃焼室と外気を直接結んだ温風暖房機が普及するようになった。その際の通風の仕方により,自然還流のBF(balanced flue)型(バランス型ともいう)と,ファンを用いて強制還流するFF(forced flue)型の2種があり,都市ガス,プロパンガス,石油のいずれの場合もFF型が主流となりつつある。
→暖房
執筆者:大村 直己
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