移動中の船舶や航空機、車両などに対して、正確に現在位置を通報する機能をもった人工衛星。日本では、測位衛星といえばGPS衛星(Global Positioning System衛星)をさすことが多い。
人工衛星による測位システムは、複数の衛星から発信された時刻信号を地上で受信し、その電波のわずかな遅延の差を測ることで受信機と人工衛星との距離を測定し、これをもとに自分の位置と時刻を計算する。人工衛星から送信される信号には、送信した時刻の情報が入っているので、自分のところに着いた時刻との「差」が届くまでの「時間」となる。この時間(電波伝播(でんぱ)時間)に「電波の速度(光の速度=299792.458Km/秒)」を掛けて、人工衛星と受信機アンテナとの「距離」を求める。
GPS衛星は高度2万6560キロメートル、傾斜角55度、周期約12時間の円軌道に軌道面を少しずつ変えて28機の衛星(2016年時点)が配備されている。GPS衛星により自らの位置を決定するためには、原理的には4機の衛星からの信号を同時に受信する必要がある。4機のGPS衛星との距離をそれぞれ計算し、四つの距離を求めると、四つの距離が一つに交わる点が出てくる。これが衛星測位によって求められる自分の位置ということになる。衛星測位にはきわめて精度の高い時計が必要である。電波は、1秒間に約30万キロメートル進むので、わずか1マイクロ秒(100万分の1秒)の時刻のずれが、300メートルもの測距誤差となる。GPS衛星には、セシウム原子時計およびルビジウム原子時計が搭載され、これらの原子時計の誤差は、30万年に1秒以下といわれる。
日本はGPS衛星の位置情報を補完してさらに精度を高める準天頂衛星「みちびき」を2010年(平成22)に打ち上げた。準天頂衛星は日本の全域とASEAN(東南アジア諸国連合)、オーストラリアの一部をカバーし、地球の自転とともに南北に長い8の字を描く静止軌道に投入された。これらの地域ではつねに天頂付近に衛星が見えることから、GPS衛星の位置情報を補完することで、10センチメートル程度の位置決定精度があることが実証されている。
GPSと類似の衛星測位システムには、ヨーロッパ連合(EU)のガリレオ、ロシアのGLONASS(グロナス)、中国の北斗(コンパス)などがあり、インドでも計画が進められている。各国ともアメリカ空軍が運用するGPS衛星は活用するものの、利用における自立性を担保するため、独自の衛星測位システムを開発運用している。
[森山 隆 2017年1月19日]
『村越真編『最新GPS活用術』(2003・山と渓谷社)』▽『トランジスタ技術編集部編『GPSのしくみと応用技術』(2009・CQ出版社)』▽『小白井亮一著『わかりやすいGPS測量』(2010・オーム社)』▽『P・ミスラ、P・エンゲ著、安田明生他訳『精説GPS』改訂第2版(2010・日本航海学会GPS研究会)』▽『土屋淳・辻宏道著『GNSS測量の基礎』改訂版(2012・日本測量協会)』
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