外貨建ての債権・債務を保有することから生じうる危険(為替リスク)を回避するための取引のこと。先物外国為替市場を利用することが多く,この場合をとくに先物カバーforward coverと呼ぶこともある。先物カバーの一例をあげると,ドル建て輸出契約を結んだ日本の輸出業者は,契約後一定期間を経過しなければ,代金(ドル建て)を回収できないので,この代金が,受け取ったその時点で,円建てでいくらに相当するかは不確定である。円レートが3ヵ月の間に切り上がれば,輸出業者が3ヵ月後に受け取る代金(ドル)の円価値は下落し,損失を被る。
為替レート(為替相場)の不確定性に由来するこのような損失を回避するためには,輸出契約額に相当するドルを3ヵ月後に(円と引換えに)売却するという契約を,輸出契約の成立時に先物為替市場で締結しておけばよい。これを先物ドル売り(先物円買い)という。先物契約により,輸出業者の保有するドル建債権の円換算値は輸出契約締結時点で確定するので,上に述べた損失は回避できることになる。
輸入業者はこれと正反対の取引によってカバーを行う。ドル建て輸入契約が締結され,実際の支払いが3ヵ月後に実行されるものとすると,円レートが切り下がった場合,輸入業者は損失を受ける。そこで輸入業者は,契約相当額のドルを3ヵ月後に円と引換えに購入するという先物契約を結んでおく。この先物ドル買い(先物円売り)によって,輸入契約に盛られたドル債務の円価値が,輸入契約締結時において確定する。
以上が先物カバーの概略であるが,これに対し,ヘッジhedgeの場合は,〈外貨建債権(債務)の保有者が為替リスクを回避するために,同額の外貨建債務(債権)を負う〉という,より広い意味に用いられる場合が多い。たとえばドル建ての長期債権をもつ日本の会社が,ドル切上げによる損失を避けるために,ドル建ての株式・社債等を発行し,外貨建ての債権・債務を等しくしておく場合などがヘッジと呼ばれる。
先物カバーの本質的な機能は,正反対の為替リスクをプールして危険を小さくすることにある。日本の輸出業者にとっては円切上げが,輸入業者にとっては切下げが損失をもたらす。両者の為替リスクはこのように対称的なので,先物取引によって為替リスクがちょうど相殺される。そして個々の業者の危険も日本全体としての危険もきわめて小さくすることができる。
執筆者:武藤 恭彦
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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