外国為替市場における裁定行為のこと。裁定行為とは,〈同質の商品の空間的または時間的な価格差を利用して危険なしに収益をあげる行為〉と定義される。外国為替市場において,たとえば東京市場では1ドル=300円の相場であるのにニューヨーク市場では1ドル=200円であるとすれば,ニューヨークでドルを購入し東京でそれを売却することにより利益をあげることができる。この行為にはなんの危険も伴わないから,上のような価格差が存在するかぎり裁定行為はきわめて活発に行われる。その結果ニューヨークではドルが値上がりし,東京では値下がりして,二つの市場における円・ドル間の相場は,取引費用に要するごくわずかの差を除けば,ほぼ一致するであろう。同様の原理は,たとえば3ヵ国ないしそれ以上の市場間または通貨間でも働く。たとえばA,B,Cの3通貨があり,A対B,A対Cの為替レートが定まればB対Cの現実の為替レートはA対B,A対Cの両レートから算出される計算上のレート(クロス・レートという)から大きく乖離(かいり)することができない。また,クロス・レートが複数の市場間で相違することもない。これも裁定行為の結果である。裁定行為が2通貨または2国間で行われる場合を直接為替裁定,3通貨または3国間以上の間で行われる場合を間接為替裁定という。為替裁定の結果,各通貨間の為替レートは世界のどの市場をとってみてもほぼ同一に定まる。つまり為替裁定により,外国為替市場における〈一物一価の法則〉が世界的に実現され,世界の為替市場は事実上一つの為替市場として考えてよいことになる。
→外国為替市場
執筆者:武藤 恭彦
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同一時点における世界各地の外国為替相場の差異を利用して利鞘(りざや)を稼ぐ操作をいう。たとえば、東京の対米相場が1ドル=100円、ニューヨークの対日相場が1ドル=102円であると、東京でドルを買ってニューヨークへ送金し、そこで円にかえれば1ドルにつき2円の利鞘が稼げる(直接為替裁定)。また東京の対英相場が1ポンド=200円、ロンドンの対米相場が1ポンド=2.10ドル、ニューヨークの対日相場が1ドル=100円であれば、東京からロンドンへ送金し、ロンドンからニューヨーク、そしてさらに東京へ送金すると、200円で10円の利鞘を稼ぐことができる(間接為替裁定)。このような為替裁定は、外国為替相場の地域的不均衡を解消させる作用をもつ。前述の直接為替裁定の例でいえば、東京ではドルが買われるのでドル相場が上昇し、ニューヨークではドルが売られるので相場が下落し、両者が均衡することになる。
[土屋六郎]
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