1175年ごろから13世紀中ごろにかけてフランスに発生した,狐ルナールと狼イザングランの抗争を主軸に据えた動物叙事詩群の総称。各挿話は独立の筋を持ち,枝篇と呼ばれ,28枝篇が現存。主題は奸智にたけたルナールが雄鶏シャントクレール,四十雀(しじゆうから)メザンジュ,猫チベール,烏チェスラン,熊ブランなどを次々に手玉にとり,とりわけ獅子王ノーブルの元帥イザングランがことごとに手ひどい仕打ちを受けるというもの。動物たちは本来の特徴を失うことなく,封建社会の人々に巧みに重ねられて的確に描き分けられ,風刺されている。この動物叙事詩の起源については,J.グリム,G.パリスの口碑説が有力であったが,1914年L.フーレは最古の枝篇の作者ピエール・ド・サン・クルーの直接の典拠はガンの修道僧ニウァルドゥスのラテン語の《イセングリムス》であるとした。しかしニウァルドゥスの典拠の問題は未解決で,おそらくはインドに生まれ,イソップを通じヨーロッパに渡り,文字文学・口碑文学により伝承されたものであろう。《狐物語》も文体よりみて語り物と推定される。最初の枝篇以後ヨーロッパ各地に流行,12世紀末にはハインリヒ・デア・グリヒェツェーレが《ラインハルト狐》を書き,フランスでは《逆説狐物語》(13世紀),《ルナール狐の戴冠》(13世紀),《狐に化けて》(14世紀)などしだいに長編の社会風刺の物語を生む。ゲーテの《ライネケ狐》(1794)は13世紀中ごろのフランドル人ウィレムの翻案に基づいている。狐物語の成功によりルナールの名は,フランス語で狐を意味する普通名詞となった。
執筆者:神沢 栄三
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12世紀後半から13世紀にかけて、古代フランス語で書かれた動物説話集。悪知恵にたけた狐ルナールRenartが、愚かな百姓や魚屋や、カラスやニワトリやヤマガラを相手に、だましたりだまされたりする話をまとめて、読者を笑わせると同時に、ある種の教訓をも与えようとして書かれた小話の部分と、力はあるが知恵の足りないイザングランという名の狼(おおかみ)を相手にして、さんざんに狐がそれを苦しめ侮辱する狐対狼の戦いの部分との、二つの群に大別することができる。この戦いに負けた狼は獅子(しし)王ノーブルのところに訴えていく。この狐の裁判の部分がとりわけ有名である。しかし狐はペテンを使って、前非を悔いその罪滅ぼしのために聖地に巡礼に行くからといい、まんまと逃げ出し、ふたたび悪さをする。この狐の裁判の部分は、封建社会の現実の裁判を模したものとして有名であり、全体に社会風刺の精神が貫かれている。
作者の名は一、二知られているが、無名が多く、その数も20余人あったと思われる。10世紀のころ今日のベルギーで、聖職者によってラテン語で書かれた『イセングリムス』Ysengrimusという説話が原型となって、それにイソップ物語とか、中世の教訓説話から材料をとって次から次へと新しい話が加えられて、今日あるような27章数十編の膨大なものに膨らんでいったといわれる。
[佐藤輝夫]
『水谷謙三訳『狐物語』(1948・大和書房)』
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12~13世紀北フランスにおける隠喩的な動物説話,26の詩からなる。市民的俗語文学の先駆。権威に対する鋭い批判的態度のもとに,動物(主人公は狐)に託して貴族,聖職者,農民そして市民自身をも風刺し,揶揄(やゆ)した。
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