日本大百科全書(ニッポニカ) 「ルナール」の意味・わかりやすい解説
ルナール
るなーる
Jules Renard
(1864―1910)
フランスの小説家、劇作家。2月22日、中仏シャロンに生まれ、父の郷里シトリーで育てられる。少年期に母に愛されない暗い日々を送る。このころの思い出は、のちに名作『にんじん』(1894)の大きな素材となる。パリに出て象徴派の詩人たちとつきあい、『メルキュール・ド・フランス』誌の創刊に参加した。小説『ねなしかずら』(1892)によって、特異な詩眼をもった作家として認められ、『にんじん』以後、『葡萄(ぶどう)畑の葡萄作り』(1894)、『博物誌』(1896)などの名作を次々と書く。とくに『博物誌』において、「イマージュの猟人」と自ら名のった幻視者ルナールの力量が存分に発揮された。1897年以後、劇作を始めたが、ここでも非凡な腕をみせた。作品に『別れも愉(たの)し』(1897)、『日々のパン』(1898)、『ベルネ氏』(1903)があるが、1900年には小説と同じ題材による戯曲『にんじん』を発表し、大成功を収めた。また、死後に全集とともに公にされた『日記』(1927)は、優れた日記文学として評価された。これは没年に至る24年間にわたって書かれたもので、つねに文体の練習に励み、人間の真実の姿を観察し続けた作家の生活が、赤裸々に描き出されている。07年、ユイスマンスの後を受けてアカデミー・ゴンクールの会員となった。10年5月22日没。
[窪田般彌]
『岸田国士訳『ルナール日記』全7冊(新潮文庫)』▽『岸田国士訳『ぶどう畑のぶどう作り』(岩波文庫)』▽『岸田国士訳『別れも愉し』(岩波文庫)』