生物学用語。生物の置かれた種々の環境条件によって、遺伝子型が同じでもその発現する形質(表現型)に変異を生じたものをいう。
同じ遺伝子型の個体が、環境の違いによってその形質が大きく変化する例が、ミツバチの雌の形質にみられる。ミツバチの女王バチと働きバチはともに雌で、遺伝子型も同じであるが、幼虫から発育する際の餌(えさ)の違いによって、その形態は大きく異なる。ヒトにおいても、日本では第二次世界大戦後、学童の身長、体重が著しく増大したが、これも発育期における食物の変化によると考えられている。
そのほか、環境の変化によって、形質の発現が大きく影響を受ける例としては、ヒトにおける癌(がん)の発生臓器が食習慣の違いによって大きく変化することも知られている。昔から日本人には胃癌が多く、直腸癌は比較的少ない。これに対して、アメリカの白人は、胃癌が少なく、大腸癌が多い。ところがアメリカに移住した日本人は、胃癌が少なくなり、逆に大腸癌が増加する。これはおそらく食習慣が変化したためで、アメリカに移民した日系二世になると、さらにこの傾向は著しい。
[黒田行昭]
『田島弥太郎著『環境は遺伝にどう影響するか』(1981・ダイヤモンド社)』▽『常盤寛編著『環境と生命』(2000・青山社)』▽『工藤岳編著『高山植物の自然史――お花畑の生態学』(2000・北海道大学図書刊行会)』
…自然界にみられる生物の進化や,人間の管理下における動物の飼養化,植物の栽培化に貢献してきた形質の多くはこのようなポリジーン支配の量的形質であるが,その遺伝様式はメンデルの研究したような形質の遺伝と本質的に異ならない。
[環境変異]
個体間の形質のばらつきを変異というが,これまで述べてきた変異はすべて遺伝子の違いによる表現型の変異,すなわち遺伝的変異である。しかし,同一の遺伝子型をもつ個体の間にも表現型に多少の差が現れる。…
※「環境変異」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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