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環境変異原 かんきょうへんいげんenvironmental mutagen

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

環境変異原
かんきょうへんいげん
environmental mutagen

生物の生活環境中に存在し,遺伝子に突然変異を誘起する因子。 H.マラーが 1927年にX線照射により人工的に起した突然変異は,その後,マスタードガスその他多くの化学物質によっても引起されることが判明した。人類は文明の進歩とともに,かつての生活環境にはなかったさまざまの化学物質を持込んできた。これらのなかには変異原性をもつものが少くない。また,突然変異は発癌や奇形の誘発と密接なつながりがあることも明らかにされている。

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

環境変異原
かんきょうへんいげん
environmental mutagen

人間の生活環境の中に存在し、突然変異をおこさせる原因となる化学物質や物理的要因。各種食品添加物や医薬品、化粧品、農薬などの人工産物のみでなく、ワラビなどの自然食品や飲料、魚や肉の焼け焦げなどの中にも変異原物質が検出されている。[黒田行昭]

環境変異原の検索法

環境変異原の検索には、以前にはラットやマウスなどの実験動物を使って、毛色の突然変異の誘発性などが調べられていたが、これには多額の費用と人員、数年の年月が必要なことから、もっと安い費用で短期間に多くの環境変異原の検索ができる短期検索法short-term testが開発された。これは、大腸菌やサルモネラ菌、枯草菌などの細菌や、酵母、カビなどの下等生物、ショウジョウバエ、カイコなどの昆虫、ソラマメ、ムラサキツユクサなどの植物を用いて、検出しやすい特定の遺伝子を指標にして突然変異の誘発頻度を調べる方法である、また人間に対する影響を評価するうえでは、ヒトをはじめハムスター、マウスなどの哺乳(ほにゅう)類の培養細胞を使って染色体異常や遺伝子突然変異、小核形成(放射線や化学物質によって切断された染色体の断片が、細胞分裂の際に赤道板に取り残され、次の分裂間期に、大部分の染色体からなる核のほかに小さな核を形成する)、不定期DNA合成(変異原によりDNAに生じた傷害が除去修復され、新しいDNAが合成されるのを放射性チミジンなどの取込みで調べる)、トランスフォーメーション(正常細胞を変異原で処理した場合にみられる細胞運動の接触阻止現象の消失、細胞の重層化、軟寒天内での増殖性の獲得などの悪性変化)などの誘発作用が調べられている。
 このようにして検出された多くの環境変異原については、数万にも及ぶ化学物質の突然変異を生じる最低作用濃度(lowest effective dose=LED)、および最高無作用濃度(highest ineffective dose=HID)が、アメリカのオークリッジにある環境変異原情報センター(Environmental Mutagen Information Center=EMIC)にそれぞれの文献とともに登録され、データベース化されている。[黒田行昭]

環境変異原の発癌性

日本人の死因の第1位を占める「癌(がん)」の原因としては、多くの「癌遺伝子」や「発癌抑制遺伝子」が関与することが知られている。体を構成する正常細胞に、このような「癌関連遺伝子」の突然変異をおこさせ癌細胞に変化させるのは、多くは環境中に存在する変異原である。正常細胞の癌化の過程には、多くの段階が想定されていて(多段階発癌説)、その第一段階のイニシエーション(1個の正常細胞の核中の遺伝子に突然変異がおこること)initiationや第二段階のプロモーション(細胞膜や細胞質に悪性の変化がおこること)promotionの過程には細胞のDNAや染色体の突然変異が関与することが知られていて、環境中に存在する発癌物質の検索にも前記の短期検索法が使用されている。
 ヒトをはじめ高等動物の体には、肝臓などに特有の代謝酵素が存在し、消化管から吸収された変異原物質はこれらの代謝酵素により活性化されたり不活性化されて標的臓器に達する。細菌を含む下等生物の短期検索法には、このような代謝による変化が含まれないので、検索系にヒトやラットの肝臓ミクロゾーム(ミクロソーム)分画を加えて、代謝活性化させて検索する。[黒田行昭]
『田島弥太郎他編『環境変異原実験法』(1980・講談社) ▽日本環境変異原学会・哺乳動物試験分科会編『化学物質による染色体異常アトラス』(1988・朝倉書店) ▽市川定夫著『新公害原論――遺伝学的視点から』改訂新版(1990・新評論) ▽菊池康基・三宅幸雄編『変異原性試験Q&A――厚生省医薬品毒性試験法ガイドラインに基づく』(1992・サイエンティスト社) ▽志賀健他編『環境と健康』(1993・HBJ出版局) ▽大野忠夫編著『動物実験代替法マニュアル――培養細胞を用いた理論と応用』(1994・共立出版) ▽黒田行昭編『抗変異原・抗発がん物質とその検索法』(1995・講談社) ▽市川定夫著『環境学――遺伝子破壊から地球規模の環境破壊まで』第3版(1999・藤原書店)』

出典|小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について | 情報 凡例

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