高山植物(読み)こうざんしょくぶつ

精選版 日本国語大辞典 「高山植物」の意味・読み・例文・類語

こうざん‐しょくぶつ カウザン‥【高山植物】

〘名〙 主に森林限界以上の高山に生育する植物の総称。低温、強風、強光などの環境にあるため、一般には小形の多年生草本や小低木が多く、地下部分が発達し、花は鮮かな色彩をもつ。生長期間が短く開花期が接近していっせいに咲き、お花畑ができる。コマクサ、ミヤマキンバイ、チングルマ、イワベンケイなど。
※風俗画報‐三五一号(1906)白山御殿町「本学教員学生生徒をして、高山植物(カウザンショクブツ)の研究に便ならしめ」

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デジタル大辞泉 「高山植物」の意味・読み・例文・類語

こうざん‐しょくぶつ〔カウザン‐〕【高山植物】

主に高山帯に生育する植物。小形の多年生草木や小低木が多く、地下部が発達し、花は鮮やかな色彩をもつ。生長期間が短いので花が一斉に咲き、お花畑ができる。コケモモチングルマイワオウギなど。
[類語]植物草木そうもく草木くさき本草ほんぞう樹木じゅもくみどりプラント一木一草食虫植物観葉植物薬用植物帰化植物

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「高山植物」の意味・わかりやすい解説

高山植物
こうざんしょくぶつ

垂直分布帯でもっとも高い高山帯に生える植物をいうが、日本では針葉林(針葉樹林)帯から上の植物をも含めて、きわめて広義に使われている。

 高山植物は寒帯の植物に由来するものが多いが、低地の植物が、それぞれの地域で高山帯に適応するようになった現地形成の種類もある。寒帯に近い高山ほど、氷期に寒帯と植物の交流が頻繁、かつ高密度に行われるので、寒帯との共通の種類が多いが、寒帯から離れるにつれて植物相の独立の程度が高くなり、現地形成の種類が多くなる。また、寒帯に由来した植物も隔離のために分化が進行して、別の分類群に変化していることが多い。ヒマラヤから中国西部にかけての高山は、氷期にも周北極(北極周辺)の寒帯との連絡が少なく、その高山植物相はかなり独自である。アフリカのキリマンジャロなどの熱帯の高山は、気温の変化が年間ではなく、1日のうちの昼夜で繰り返されるという特殊な環境下にあり、また、高山相互の独立性が強いために、その植物相は山ごとに大きく違っている。アンデス山脈の高地も独特の植物相をもち、スミレ属のように、熱帯降雨林の構成種が山地に上昇し、変化したものも少なくない。ニュージーランド、オーストラリアにも高山があるが、その植物相はキンポウゲ科、リンドウ科などの北半球の寒帯や高山と共通する種属の多いことが注目される。熱帯から南半球にわたっては、北半球の寒冷地に起源すると考えられるウシノケグサ属など、いくつかの種属も知られている。高山植物の分布拡散には、氷期の地続き分布のほか、風、鳥などによる分布もあわせ考える必要がある。

 高山植物には、丈の低いわりに大きな花をつけるものが多いが、イネ科、カヤツリグサ科、イグサ科などの風媒花のグラミノイド植物(イネ科植物状の葉が細くて硬い植物)も重要な役割を果たしており、量的には蘚苔(せんたい)、地衣も無視することができない。また、高山植物には寒帯の植物と同じく、染色体の倍数性の高いものが多く、むかご(胎芽(たいが))などによる無性生殖を行う種類が多い。

 高山では積雪の配分状態が植物の配分に重要な影響をもっている。北半球では、積雪は北東面により多く積もり、南西面は少ない。このため、南西面や尾根筋(すじ)では冬に積雪で保護されることが少なく、寒気にさらされるが、夏にはいち早く雪が消えて、高山のなかでは植物の生育期間がもっとも長い。しかし、日射量が多く、偏西風を常時受けるので、乾燥に傾き、風の影響が強く現れる。北東面では雪のために保護されて、冬の寒気からはかなりの程度に守られるが、融雪が遅く、そのために生育期間は短縮し、雪田の底では、雪解けから初雪まで1~2週間しかないこともある。降雪の多い年には雪が解けず、2年にわたって雪の下に閉じ込められる場合もある。しかし、雪が解ければ水湿は一般に十分で、強い偏西風にさらされることもない。

 この積雪による対照的な環境の大区分に加えて、流水、岩場、構造土、崩壊などの要素が複合して、さまざまな生態空間が形成されている高山は、単位面積当りの環境変化が著しく、それが多彩な植物群落と豊かな植物相を演出している。日本の高山の重要な環境空間と、そこに生ずる植物群落は次のようになる。

〔1〕風衝地の低小草原 南西斜面や尾根筋のもっとも風当りの強い所に生じ、ヒゲハリスゲ、オノエスゲなどのグラミノイド植物とミヤマシオガマチシマアマナチシマゼキショウなどの草本、チョウノスケソウオヤマノエンドウなどの小低木が混合し、さらにハナゴケ類、エイランタイ類、ムシゴケなどの地衣とシモフリゴケ、フトゴケなどの蘚苔類が複合する。

〔2〕風衝地の矮性(わいせい)低木群落 低小草原と同様の環境だが、それよりやや低い所、あるいはやや風の弱い所に生ずる。ミネズオウ、コメバツガザクラガンコウランなどの常緑性の矮性低木の多い群落と、クロマメノキウラシマツツジなどの夏緑性の矮性低木の多い群落とがあり、また、両者が混合している場合もある。蘚苔、地衣は低小草原と同様に多い。東北地方から北海道にかけてはチシマツガザクラが加わる。

〔3〕構造土礫地(れきち)の植物群落 氷結融解によって土壌が動き、砂礫が粒径別に選別移動して平坦(へいたん)地では多角形に、斜面では階段状または線状に配列する環境で、そのもっとも動きやすい細粒部には、コマクサ、タカネスミレなどの群落が生ずる。

〔4〕崩壊地の植物群落 重力によって砂礫が移動する所で、イワツメクサ、イワスゲなどがまばらに生える。現地形成の高山植物の多い環境で、本州中部のヤマホタルブクロなどがこの代表種である。

〔5〕雪田の植物群落(雪田群落) 融雪後も湿っている所で、土壌がよく発達し、ハクサンコザクラハクサンオオバコイワイチョウなどが生え、融雪後に乾く凸状の所では、アオノツガザクラ、チングルマなどの矮性低木の群落となる。

〔6〕湧水(ゆうすい)地、流水縁の植物群落 チョウセンハリガネゴケなどの蘚苔類が多いほか、シロウマチドリ、タカネイなどがみられる。

〔7〕岩場の植物群落 日陰の岩隙(がんげき)ではアオチャセンシダ、トガクシデンダなどが、日なたにはクモマナズナ、イワベンケイなどがつく。

 温帯の高山は、どこでも日本の高山と同じような環境区分が可能で、種は違っても同じような環境空間には、類縁の植物がみられるのが普通である。世界各地の高山はほとんど例外なく放牧され、高山植物群落にその影響が強く現れているが、日本の高山帯は有史以来放牧を免れてきた希少な例である。

 日本の高山では、赤石山系の北岳(きただけ)や東岳、飛騨(ひだ)山系の白馬(しろうま)岳、北海道の大雪山(たいせつざん)がもっとも高山植物の種類に富んでいるが、ほかに早池峰山(はやちねさん)(岩手県)、夕張(ゆうばり)岳(北海道)、至仏(しぶつ)山(群馬県)などの超塩基性岩の山も特異な植物相を示し、そこでは高山帯的な植生が通常よりずっと低位置に降りている。

 日本の高山植物は、区系的にみると、(1)本州中部山岳、(2)飯豊(いいで)山から八甲田(はっこうだ)山までの東北地方の山、(3)北海道の高山の3地域に区画できるが、その植物相には、アラスカなどの周北太平洋地域と東シベリア方面の二つの源流が認められる。

[大場達之]

『大場達之・高橋秀男著『万有ガイド・シリーズ33 日本アルプスの花』(1985・小学館)』『高橋秀男著『JTBブックス 高山植物』(1985・日本交通公社)』『山崎敬編『フィールド版 日本の高山植物』(1985・平凡社)』『青山富士夫著『自然観察シリーズ21 高山の花』(1984・小学館)』『清水建美著『原色新日本高山植物図鑑Ⅰ・Ⅱ』(1982、1983・保育社)』『大場達之・木原浩著『フィールド百花 山の花2・3』(1982・山と渓谷社)』『大場達之・高橋秀男著『日本植物図鑑8 高山と亜高山の花』(1978・社会思想社)』


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改訂新版 世界大百科事典 「高山植物」の意味・わかりやすい解説

高山植物 (こうざんしょくぶつ)
alpine plant

日本列島においては,森林限界は海抜高度2500m前後にあり,それから上部を高山帯と呼ぶ。これは水平的な気候帯と比較するとほぼ寒帯に相当する(しかし,最近日本列島には気候的にみて寒帯に相当する高山帯がないという説もあり,日本の高山帯が高緯度地方の寒帯や低緯度地方の高山における高山帯と対応して,どのような位置を占めるのかは今後の研究課題でもある)。この高山帯におもな分布域のある植物を高山植物と総称する。高山植物の起源を調べてみると,その分布系統からきわめて多種多様な群が含まれているが,大半は現在極圏を中心に分布する極地植物群と共通か,あるいはまた類縁の深いものが多い。第四紀更新世には少なくとも4回の氷河期が記録されている。寒冷気候が支配するこの時期には,アジア大陸と北アメリカ大陸は現在のベーリング海峡で陸続きで,多くの周極分布をもつ植物群は南方へと移住した。日本列島は大陸氷河に覆われることはなかったが,気候条件は今日よりも寒冷であったから,これらの植物群が低地に広く分布していた時期があったと推定される。最後のウルム氷期以後,気候が温暖になるとともに暖温帯系の植物群は北上し,これらの氷期に分布を拡大した寒地植物群は高山に移住し,隔離されて,今日のような分布域を占有するに至った。イワウメ,ミネズオウ,チシマギキョウ,ミヤマイ,クモマスズメノヒエ,コメススキ,ガンコウランなどが,極地に起源をもつ代表的な植物である。一方,現在日本列島の高山帯にはイワカガミ,ショウジョウバカマなどのように低地から高山帯まで幅広い生態分布を示す種も出現するが,これらは明らかにその生活史からみて暖温帯要素に属するとみなされるものである。

 高山の環境は,その多様な地形,土壌要因,基層の不安定性,極度に短い生育期間,冬期間の著しい低温と強い風,きわめて多い積雪量,幅広い日射量の変化と温度較差など,どの要因一つをとってみても平地と著しく条件を異にしている。したがって,発達する植物群落は比較的小型の多年草や矮性(わいせい)低木からなることが一般的である。ハイマツは日本列島の高山帯に生育する数少ない樹木の一つで,高山帯の指標植物とされているものであるが,その分布は本州中部の高山から東北地方,北海道,サハリン,千島列島をへて,シベリア大陸の東北部まで広がっている。この植物はその著しい匍匐(ほふく)性の樹型とともに,つねに森林限界より上部に出現し(ただし,分布域の北部では海岸付近の低地にも生育する),その他の大型低木であるキバナシャクナゲ,クロウスゴ,タカネナナカマド,ウラジロナナカマド,マルバシモツケ,タカネイバラ,コケモモなどを伴い,特徴的な群落を形成する。ハイマツのすきまや岩石地,砂礫(されき)地には矮小低木や草本植物を主体とするいわゆるお花畑が形成されるが,その地形,基層の安定性,水分の供給状態などを反映して多種多様な群落が形成される。すり鉢状の地形の底部に位置し,雪渓からの豊富な融雪水でうるおう湿潤な一帯には,コバイケイソウ,シナノキンバイ,ハクサンフウロ,イワイチョウ,ミヤマイ,ハクサンコザクラなどの典型的な雪田植物群落が形成される。また,やや緩斜面の中部の適量の地下水に恵まれた場所は,種類組成の点では最も豊富な中性お花畑が発達し,アオノツガザクラ,ヨツバシオガマ,タカネコウゾリナ,ハクサンイチゲ,チングルマ,ミヤマキンポウゲ,タカネナデシコ,クルマユリ,クロユリ,シロウマアサツキ,ハクサンチドリなどを伴った群落がみられる。高山の尾根筋などの急斜面は,その基層が不安定で,礫などが移動しやすい場所であるので,タカネウスユキソウ,ミヤマオトコヨモギ,チシマギキョウ,ガンコウラン,オヤマノエンドウ,ミヤマダイコンソウ,ミヤマハタザオ,コバノツメクサ,タカネツメクサ,イワスゲ,コメススキなど,不安定な基層に耐えられる植物群落が発達する。

 コマクサ,タカネスミレ,イワブクロ,ムラサキモメンヅルなどのようにむしろ砂礫地でないと生育できないような植物もある。岩石地の中でも安定した岩塊や岩壁の割れ目などには,イワベンケイ,イワウメ,コメバツガザクラ,チシマツガザクラ,イワヒゲ,チョウノスケソウ,シコタンソウ,チシマアマナ,ヒメカラマツ,シコタンハコベなどの安定した土壌を好む種類が多い。

 地下水がわきだすような多湿な砂礫地には,ミヤマタネツケバナ,タカネキンポウゲ,ジンヨウスイバなどが生育する。また,岩壁の地下水がしみだしたり,雲霧が凝結して水滴を落とすような湿潤な裂け目には,ミヤマダイモンジソウ,ムカゴユキノシタ,ヒメセンブリ,クロクモソウなどが生育する。

 火山活動の結果,火山灰が堆積したり,溶岩流によって形成された台地や凹地にはしばしば泥炭が堆積して水の浸透がさえぎられ,高層湿原が発達する。こうした場所には各種のミズゴケが生えるが,ワタスゲ,ヤチカワズスゲ,イワイチョウ,タテヤマリンドウ,イワショウブ,キンコウカ,ミヤマイ,ミネハリイなどが群生する。

 このような高山というきわめて過酷な環境に生活の場がある植物の種は,その形態,構造や機能の点でも特異的な分化をとげたものが多い。強い日射や紫外線の多い光条件を反映して,節間は短く,葉も小型で厚くなり,クロロフィル総量は少なく,クロロフィルa/b比は5~7の特異的な値(平地の植物では通常3:1)を示す。植物体に比べて花も大型で,鮮やかな色彩のものが多い。また,永い冬と雪どけ後の急速な生長を保証するための貯蔵物質を蓄えた根系の発達するものが多く,葉や茎などの植物体も毛で覆われたり,葉のへりが巻き込んで針状となったり(ツガザクラ,コメススキ),多肉葉をもって耐乾性を増大させるなどの適応形態の分化が認められる。

 日本の高山植物のうち約40%は固有要素で,約30%はアジア大陸との共通な要素,約20%が周極要素に属するが,キク科,ゴマノハグサ科,サクラソウ科,ツツジ科,バラ科,キンポウゲ科,ナデシコ科,イネ科,ラン科などが多い。熱帯では高山帯は海抜標高3500m以上の高度に見られるが,日本の高山植物との共通種は少ない。
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百科事典マイペディア 「高山植物」の意味・わかりやすい解説

高山植物【こうざんしょくぶつ】

高山の森林限界線以上の高さにおもに生活する植物の総称。低温のため植物の生育可能な期間は短く,環境の変化の幅も大きいため,森林はできず,比較的小型の多年生草本(そうほん)や小低木が多い。葉は小さくて厚く,毛でおおわれ,また生長量が小さく,地上部が地下部に比べて小さいものが多い。花色は鮮明で花期が接近し一時に開花するため,お花畑といわれる美しい景観を示す。日本の高山植物は40%が固有種,30%がアジア北東部共通種,20%が北周極地方共通種とされている。キク科(タカネニガナ,ウスユキソウ類),ゴマノハグサ科(タカネシオガマ,ミヤマクワガタ),リンドウ科(ミヤマリンドウ,トウヤクリンドウ),サクラソウ科(ハクサンコザクラユキワリソウ),ツツジ科(イワヒゲ,キバナシャクナゲ,クロマメノキ),バラ科(ミヤマダイコンソウ,チングルマミヤマキンバイ),ケシ科(コマクサ),キンポウゲ科(ミヤマオダマキ,ハクサンイチゲ),ラン科(ハクサンチドリ)などが代表的。
→関連項目飯豊山岩手山御嶽山木曾山脈黒部五郎岳至仏山白馬岳仙丈ヶ岳トムラウシ山火打山南アルプス国立公園薬師岳利尻山

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「高山植物」の意味・わかりやすい解説

高山植物
こうざんしょくぶつ
alpine plant

高山帯に生育している植物の総称。高山帯 (日本中部では 2500m以上) の下部では低木の密生する低木帯がありハイマツはその代表的なものである。低木帯の上部は草本帯で多年草が主体となりいわゆるお花畑をつくる。シナノキンバイ,ハクサンイチゲ,ヨツバシオガマ,ナンキンコザクラなどは代表的な高山植物である。乾いたところにはコマクサ,ヒナウスユキソウ,イワギキョウなどがみられる。また一見草本のような低木としてはチングルマ,イワウメ,ガンコウラン,イワヒゲ,ツガザクラなどがある。白馬岳,北岳,八ヶ岳などは高山植物の豊富なところである。

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