大腸がんは
大腸がんは、すべてのがんによる死亡率からみると、男性では肺がん、胃がん、肝がんに次いで4位であり、女性では1位になっています。しかし、がん死亡全体に占める割合は増え続けていて、10年後には年間7万人に達すると思われます。国際的には低いのですが、まだまだ増加が懸念されます。
大腸がんが年々増えてきた最大の要因は食生活の変化であり、とくに動物性脂肪の摂取量の増加が大腸がんの増加をもたらした、と考えられています。
直腸をさらに詳しく分類すると、直腸S状結腸部、上部直腸、下部直腸に分類されます。肛門管は正確には直腸ではありません。直腸は結腸と違って骨盤内にあるため、骨盤内の手術を複雑なものにしています。男性では直腸の前方に
大腸がん、直腸がんの原因は、現在では動物性脂肪の摂取量の増加と考えられていますが、決定的な原因はまだ見つかっていません。一方、予防因子としては以下のようなものが考えられています。
・魚に多く含まれる不飽和脂肪酸(DHA、EPA)などは大腸がんの予防になる。
・緑黄食野菜のなかの
しかし、不飽和脂肪酸およびβカロテンを多くとれば、必ずがんの予防になるというものではなく、何よりもバランスのよい食事が重要です。
最も多いのは血便です。そのほかには排便に伴う症状が出やすいのが特徴で、便秘、便が細くなる、テネスムス(排便がなくてもたびたび便意を感じる症状)、腹痛などが主な症状ですが、かなりの進行がんになるまでまったく症状がない場合も少なくありません。
直腸がんは
集団検診では、大腸がんのスクリーニング法として
しかし、大腸がんのすべてで便潜血反応が陽性になるのではなく、いろいろな検査のなかのひとつの方法と考えたほうがよいと思われます。実際、1回の便潜血反応検査では大腸がんの患者さんの20~40%が陰性であり、便潜血を2回、3回行って初めて陽性が100%近くになります。疑わしい場合には便潜血反応検査の意味はほとんどなく、注腸造影検査や内視鏡検査を行う必要があります。
逆に、便潜血反応が陽性であってもそのほとんどが痔疾患などで、大腸がんは3~5%にすぎないので、すぐにがんの心配をすることはありません。
実際に血便、便秘、便が細くなる、腹痛などの症状がある場合は、迷わず、大腸肛門科を受診することをすすめます。大腸肛門科では、直腸
内視鏡検査は、現在ではほとんどが電子内視鏡になり、先端にテレビカメラがついていて、モニター(テレビ画面)を見ながら検査を行います。内視鏡は日進月歩で改良され、熟練した内視鏡医であれば、ほとんど苦痛なく、10~30分で検査が終わります。また内視鏡検査では、観察以外に切除などの治療も同時に行うことができます。ただし、1000~5000回に1回の割合で腸に
がんの進行度(
腫瘍マーカーは、がんの診断に使われていると思われがちですが、これは間違いです。大腸がんではCEA、CA199、ST439などの腫瘍マーカーがありますが、これは他の腫瘍や病気の場合でも上昇することがあり、また早期では上昇せず、診断には役立ちません。ただ術後の治療効果、再発のチェックには有用です。
一般的には腫瘍の切除が必要になります。直腸では、がんの浸潤の程度と、肛門括約筋との位置関係が手術方法を決定するうえで重要です。
小さい腫瘍の場合は、内視鏡的粘膜切除術(EMR)が行われます。
腫瘍が大きく、進達度(粘膜下へのがんの広がり)が浅い場合は経肛門的切除が行われます。肛門から約8㎝までは経肛門的に切除できます。
それ以上の場合は、経肛門的に内視鏡と
また、内視鏡治療処置具の進歩がめざましく、最近では、大腸粘膜にとどまる早期がんであれば、大きなポリープでも内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)という新しい内視鏡治療が可能となりました(保険で認められていませんが、専門病院では施行している施設もあります)。
それ以上の直腸がんでも、症例によっては腹腔鏡下直腸切除術が適応となります(これもどの施設でもできるものではありません)。
いずれの場合も、切除した標本におけるがんの病理検査(分化腺がんか低分化腺がんか)と壁浸潤度により根治性が決定されます。
直腸の進行がんで部分切除では根治の可能性がない場合、または部分切除で不十分であった場合は、一般的には開腹による直腸低位(高位)前方切除術またはマイルズ手術が選択されます(図1)。
前方切除術は、直腸がんを切除後にS状結腸と直腸とをつなげる手術です。肛門から腫瘍を触れなければ、ほとんどの場合、人工肛門にはしません。しかし、病変の広がりや患者さんの全身状態により、人工肛門を選択する場合もあります。肛門は残しますが全身状態などから負担を少なくするために人工肛門にする場合は、ハルトマン手術といわれています。
一方、マイルズ手術は、がんが肛門に近い場合やがんの浸潤により肛門括約筋を温存できない場合などに選択されます。一般的には肛門と直腸を切断後、左下腹部にS状結腸による人工肛門を造設します。
直腸低位(高位)前方切除術またはマイルズ手術が行われた場合、手術後に機能的な問題として性機能障害、排尿障害、排便障害の問題が生じることがあります。最近では、より障害が少ない骨盤神経
直腸がんの手術で、可能な限り人工肛門を作らない手術としての直腸低位前方切除術はさらに進歩し、最近では超低位前方切除術とか、内肛門括約筋切除術(ISR)といった手術が行われる施設があります(図3)。しかし、根治性と排便障害の問題があり、専門施設でしか行うことはできません。
直腸がんに使われる抗がん薬にはさまざまなものがあります。手術でがんをすべて切除しても、約17%に再発が起こります。再発を抑える目的で行う化学療法(抗がん薬)を補助化学療法といいます。また、がんをすべて取りきれなかった場合や、明らかに再発した場合、積極的に行う化学療法があります。
現在のところ、化学療法で、術後の生存期間が延長することが証明されている治療がありますが、生存率を改善するのに有効な方法は確立されていません(化学療法で直腸がんを治すことはできません)。しかし、フルオロウラシル(5FU)を中心としたロイコボリン(LV)/5FU療法や、イリノテカン(CPT11)、オキサリプラチン(OHP)製剤などに延命効果が認められており、今後に期待されています。
化学療法は、いろいろな薬を組み合わせて使用することにより年々延命効果もよくなっています。現在では、FOLFOX/FOLFORI療法が世界的にも標準治療となっています。また最近では、ベバシズマブ(アバスチン)、セツキシマブ(アービタックス)などの、がんを成長させる因子に対するモノクローナル抗体(分子標的治療薬)が使われるようになり、これらを組み合わせることにより、いっそう延命効果が得られるようになってきています。抗がん薬を使わない場合と比べて、4倍ほどの延命効果が得られています。
放射線照射は、切除不可能なものを切除可能にするなど、ある程度の効果が認められてはいますが、生存率が向上したという報告はありません。
この病気は、血便などの症状があるにもかかわらず痔核などの痔疾患と間違えられて、進行がんになって初めて発見される場合がいまだに多くみられます。血便、排便異常、腹部の膨満などの症状がある場合は、迷わず肛門科または大腸肛門病の専門外来のある病院を受診し、診察を受けることが必要です。
手術が必要な場合、直腸がんの手術は熟練を要し、また術後の管理が必要になります。
痔を含めた大腸疾患の専門外来のある病院、人工肛門の外来のある病院、ETと呼ばれる人工肛門ケア専門看護師がいる病院を受診することをすすめます。
梅枝 覚
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報
直腸癌は大腸癌のほぼ過半数を占め,年齢的には40~60歳代の男子に多いとされているが,他の部位の癌にくらべて若年者にもまれではない。直腸に癌が発生して進行すると,腸壁を貫いて直接周囲の組織を侵していく。すなわち男子では膀胱や前立腺へ,女子では子宮あるいは腟へ浸潤していく。そのほかリンパ管や血管を介して癌が転移する。とくに血行性の転移は門脈を通って肝臓へ転移する。さらに肺や脳へも転移するが,これらを癌の遠隔転移という。肝臓転移は大腸癌の場合特徴的で,手術時すでに10~15%に肝臓転移がみられるとの報告がある。転移があれば根治手術は不可能である。
症状としては直腸出血,便通の変化,不完全な排便感(残便感),会陰部痛などがおもなものである。直腸出血をみた場合,たとえ痔核があっても直腸癌の有無について検査をすべきである。癌の出血は通常持続性である。そのほか全身的にやせ(体重減少)や貧血がある。
確定診断は,直腸指診による硬い腫瘤の触知と注腸X線検査,直腸鏡検査の所見と生検材料の組織学的検査によって行う。直腸鏡は長さ25ないし30cmの硬性の直達鏡で,直接癌の観察が可能であり,さらに組織の一部を切除して病理組織学的検査を行うことができる。癌の形は通常限局型で,中央に大きな潰瘍をもっており,大部分は腺癌である。注腸X線検査では典型的な場合,リンゴの芯状の陰影欠損像(apple core像)を示すので,診断は容易である。一方直腸癌は,その約4割がはじめ痔核として治療されている現実からみると,肛門出血あるいは直腸出血があった場合,迷わず専門医を訪ねて正しい診断をしてもらうことがたいせつである。
治療は外科的治療以外にはない。癌のできた部位によって多少手術方法が異なる。癌が上部直腸に発生している場合には直腸切除術(前方切除術)が行われる。癌を含めて直腸切除後,残存した肛門側の直腸とS状結腸とを吻合(ふんごう)する。これに対して腹腔外の下部直腸の癌では,癌を含めて直腸および肛門を大きく切断し(この場合は切除とは呼ばず切断という言葉を使う),自然肛門部は縫合閉鎖する。そして健常部分のS状結腸の切断端を用いて,左下腹部に人工肛門を作成する(腹会陰式直腸切断術,マイルズ手術)。人工肛門は患者にとっていかにも不都合なことであるため,最近では前方切除術のような自然肛門からの排便を考慮する肛門括約筋温存手術や,術後の機能障害を防止する自律神経温存手術に努力がはらわれている。しかし一方,人工肛門に対する洗腸技術(1~2日に1回500~1000mlの微温湯で大腸を洗浄する方法)が進歩し,その管理も容易になっている。予後は食道癌や胃癌にくらべて良好であるが,大腸癌の現在の問題は血行性転移であり,その治療と予防が大きな課題である。術後の局所再発予防には術前放射線照射療法が有効である。
執筆者:立川 勲
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…直腸癌のうち,肛門管の領域にできた悪性腫瘍をいい,全直腸癌の2~3%の頻度でみられる。肛門管とは,下方は会陰部の毛の生え際に一致する肛門下縁から,上方は肛門粘膜が直腸粘膜に移行するところまでの長さ平均約3cmの部分をいう。…
…大腸の癌腫。発生の部位によって直腸癌と結腸癌に大別される。原因は不明であるが,重視されているのは大腸ポリープのうちの大腸腺腫の癌化で,腺腫の性別頻度,年齢別頻度,部位別分布が大腸癌のそれに一致し,かつ腺腫の一部に癌が見つかることがあるからである。…
※「直腸癌」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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