一般に生存中の個人から別の個人へ財産を無償で分け与える行為。日本ではとくに相続・遺産対策を目的に親族などに財産を与えることを意味する。生前贈与をする人を贈与者、受け取る人を受贈者とよぶ。生前贈与は契約であり、贈与者と受贈者双方の合意が必要である。生前贈与は贈与者が生存中なら何度でも可能であるが、受贈者には納税・申告義務がある。株式、債券、不動産などは評価額で贈与額を算出する。不動産贈与には登記が必要である。
生前贈与の際にかかる贈与税制度には、暦年課税と相続時精算課税の2種類があり、受贈者はそのいずれかを選択できる。暦年課税では、受贈者がその年(暦年)に受け取った財産合計額から基礎控除(110万円)を差し引き、贈与税率(10~55%の8段階)を掛けて税額を計算する。18歳以上の受贈者が父母、祖父母から贈与を受ける場合、税率が低くなる優遇制度がある。また、配偶者に居住用不動産の贈与があった場合、110万円とは別に2000万円の控除がある。相続時精算課税では、2500万円までの贈与には贈与税がかからず、2500万円超には20%の贈与税がかかる。贈与者は60歳以上の父母・祖父母、受贈者は推定相続人である18歳以上の子・孫である。相続時精算課税では、贈与時に贈与税を納めるが、贈与者が死亡した場合(相続時)には、贈与された財産を相続財産に加えて相続税を計算する。なお衣食住に必要な生活費、教育費、冠婚葬祭費用など親が子へ援助として与える金額には贈与税がかからない。
日本では、生前贈与で相続税を逃れようとするおそれがあるため、長く贈与税負担は相続税負担よりも重く設定されてきた。しかし少子高齢化が進み、金融資産が高齢者に偏在したなかで、経済を活性化するには、高齢者が保有する資産の若年層への早期移転を促す必要があるとの判断から、21世紀に入って相次いで生前贈与をしやすくする制度改正がなされている。まず、2003年(平成15)に相続時精算課税制度が導入され、2013年には、孫への教育資金援助に限って贈与税を1500万円まで非課税とする税制改正が行われ、2015年には贈与税率の引下げなどが実施された。
[矢野 武 2022年4月19日]
(上村協子 東京家政学院大学教授 / 2007年)
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