日本大百科全書(ニッポニカ) 「生涯カルテ」の意味・わかりやすい解説
生涯カルテ
しょうがいかるて
一人の患者に対して医療機関ごとにつくられるカルテを一元管理する仕組み。同一の検査・診療の繰り返しや、処方の重複などのむだを省き、医療を一連の流れにそって効率的に提供しようとする試みである。高齢化に伴う疾病構造の多様化への対応と、病院と地域・在宅医療をつなぐ「継ぎ目のない医療・ケア」実現のための試みで、医療情報の共通ネットワークづくりを基盤に、個人の病気と健康を生涯を通して一元的に管理するシステムを構築しようとするものである。「一患者一(生涯)カルテ」「通年カルテ」ともいう。
生涯カルテが実現すれば、医師不足に直面している医療現場の診療負担を軽減でき、個人の病歴など蓄積された医療情報をもとにした診断の質の向上も期待できる。加えて、高齢者医療の一翼を担う在宅医療に携わる医療機関や介護施設との間にネットワークを構築し、綿密な連携による病院と地域内施設との役割分担や、限られた医療資源の有効活用も実現できる。また患者情報の一括管理と情報の共有が可能な電子カルテシステム導入により、医療機関どうしで患者紹介や診療予約を迅速に行うことができ、地域の施設から送られる医療画像を見ながら、専門医療を提供する病院の医師が遠隔画像診断を行うことなども可能となる。セカンドオピニオンを求めたり、異なる治療法を求めて、他の医療施設へ受診または入院することも容易になる。
近年、重症患者を中心に専門的な医療サービスを提供する急性期型病院と、これらの病院を退院した後の回復やリハビリを担うリハビリ型病院の役割分担が明確にされつつある。生涯カルテ導入によるネットワーク構築により、地域の診療所などで住民に密着した医療を担う「家庭医」や「かかりつけ医」などと、専門医療を提供する急性期型病院との役割分担が明確になることも期待される。
[編集部]