日本大百科全書(ニッポニカ) 「産業型社会」の意味・わかりやすい解説
産業型社会
さんぎょうがたしゃかい
industrial type of society
イギリスの社会学者H・スペンサーが軍事型社会militant type of societyに対置した社会類型の一つ。社会が原始状態を脱して軍事的活動が重要性をもたなくなると、産業が支配的な社会となり、成員は自由に産業に従事し、職業の分化に伴って異質性と連帯性が増加し、対内的規律は「自発的協同」が支配的となる。そこでは、自由な貿易、私的組織の民主的かつ自由な発達がみられ、成員の意志を至上のものとする政府の役割は個人の権利の保護と調整に縮小されるようになる。社会有機体説をとる彼の立場からすると、こうした産業型社会は「超有機体」に近いものとなる。彼は、この産業型と軍事型の2社会類型がどの社会でも併存してきたと考えるが、後者から前者への移行を進化と考えており、産業型社会こそが近代市民社会の完成態とみていた。社会発展の二分法的類型化の典型とみられるが、のちに多くの批判にさらされた。
[田原音和]