産業型社会(読み)さんぎょうがたしゃかい(英語表記)industrial type of society

日本大百科全書(ニッポニカ) 「産業型社会」の意味・わかりやすい解説

産業型社会
さんぎょうがたしゃかい
industrial type of society

イギリスの社会学者H・スペンサー軍事型社会militant type of societyに対置した社会類型の一つ。社会が原始状態を脱して軍事的活動が重要性をもたなくなると、産業が支配的な社会となり、成員は自由に産業に従事し、職業分化に伴って異質性と連帯性が増加し、対内的規律は「自発的協同」が支配的となる。そこでは、自由な貿易、私的組織の民主的かつ自由な発達がみられ、成員の意志至上のものとする政府の役割は個人の権利の保護と調整に縮小されるようになる。社会有機体説をとる彼の立場からすると、こうした産業型社会は「超有機体」に近いものとなる。彼は、この産業型と軍事型の2社会類型がどの社会でも併存してきたと考えるが、後者から前者への移行を進化と考えており、産業型社会こそが近代市民社会の完成態とみていた。社会発展の二分法的類型化の典型とみられるが、のちに多くの批判にさらされた。

[田原音和]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「産業型社会」の意味・わかりやすい解説

産業型社会
さんぎょうがたしゃかい
industrial type of society

近代資本主義社会が出現した 19世紀後半のイギリスを表象して,イギリスの社会学者 H.スペンサーが定義づけた社会のこと。スペンサーは原始社会を典型とする軍事型社会に対し,この産業型社会の典型は近代的商業社会であるとした。ここでは自発的協力が支配する。また,この社会は商品の売手買手とから成り立つ。そして,「平等で自由な法則」にのっとり,個人は社会的全体によって抑圧されることなく,むしろ個人を擁護することは社会の義務であるとされる。したがって産業型社会は,集権的な軍事型社会とは異なり,あくまでも分権的であることを特徴としている。スペンサーは,こうした軍事型社会から産業型社会への移行を社会進化道程と見,この社会が 19世紀後半のイギリスにおいて出現しはじめたとみる。それゆえに,ブルジョア自由主義の立場から社会再建の理論的基礎づけを行なったといえる。

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