異姓不養(読み)いせいふよう

日本大百科全書(ニッポニカ) 「異姓不養」の意味・わかりやすい解説

異姓不養
いせいふよう

異姓の者、すなわち祖先を同じくしない者は養子にしてはならないという中国の礼制上の原則をさす。養子は祖先の祭祀(さいし)を維持するためのものであるが、祖先は自分と男系の血を同じくする子孫が祭らなければならないという思想に基づいている。中国歴代の法律にも規定されたが、国民生活上は、同姓不婚ほどには厳しく守られなかった。日本の律令(りつりょう)でもこの原則を取り入れ、江戸幕府旗本御家人(ごけにん)の養子についてこの原則を定めているが、民衆の間では行われなかった。

石井良助

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「異姓不養」の意味・わかりやすい解説

異姓不養
いせいふよう
yi xing bu yang

中国において,かつて異なる宗族の男子を,正規の養子 (嗣子,過継子) とすることを禁じた制度。祖先を同じくする男系血族 (同宗) で,かつ子の世代にあたるもの (昭穆相当) でなければ,祖先祭祀を継ぐことができないとする思想に由来する。「同姓不婚」と表裏をなし,少くとも周代以来近時まで,家族制度上の基本原則とされた。歴代の立法にも,違反に対する制裁が規定され,唐律では,徒一年,与える者は笞五十としている。しかし,実生活上は,必ずしも徹底したものではなく,また唐代藩鎭の仮子のような脱法も行われた。

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世界大百科事典(旧版)内の異姓不養の言及

【家族法】より

…婦人も結婚によって姓を変えることなく,むしろ結婚後は,某の妻某氏というふうに実家の姓をこそ自己の名とする。 同姓不婚,異姓不養という両面の規範が,〈姓〉の根底にある基本観念を物語っている。それは,人はその父の生命の延長としてこの世に生きるという観念であり,父子の関係を組み合わせ積み重ねてみれば,共同の祖先から父系の血筋を通じて分かれ出た子孫はすべて同一の生命の拡大した同類にほかならないという観念である。…

【宗族】より

…同姓不婚は要するに共同祖先の男系の血脈内での通婚禁止の制である。同姓不婚と表裏をなすものとして〈異姓不養〉がある。男系の血続を維持するため,娘に他姓から養子を迎えて本族を継がせるようなことはせず,養子の必要があれば必ず同姓から迎える。…

【養子】より

…現代中国では宗族や家系のために嗣子を立てることは許されていない。【植松 正】
[朝鮮]
 李朝の初期ころまでは姓の異同に関係なく3歳未満の子を養子として育てる習俗があったが,氏族制度が普及するに伴い,李朝の中期以降は中国と同じく異姓不養が原則とされるに至った。したがって養子の縁組は姓も本貫も同じくする同姓同本の近親内の,しかも子の世代に当たる者に限られた。…

※「異姓不養」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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