中国の父系親族集団。中国では「異姓不養、同姓不娶(ふしゅ)」というように同姓者間の婚姻が禁じられ、養子も同姓の子の世代の者を迎えるべきとされている。宗族は、広義にはこの同姓の範囲をさすこともあるが、通常それより狭い、族譜、祖先祭祀(さいし)、族産などをともにし集団としてまとまっている単位を表す。ただし、海外華僑(かきょう)など同一宗族の人口が少ない場合、異系の同姓者を併合し機能集団をつくることも珍しくない。
宗族の大きな特色の一つは、その内部が均質と限らず、しばしば地主と小作人、農民と商人、官僚といった職業や階層で異質のメンバーを含み、いくつかの分派に分かれている場合も、その集団相互間の経済的、政治的地位が一様でないことにある。富裕な集団は、成員増加率が高く分節化も進み、1人の成員がさまざまのレベルの集団に所属しうるが、貧乏な集団は分化が行われない。すなわち、宗族が強い凝集力をもつには、経済的基盤が必要で、これらを欠く場合、家族レベルでの祖先祭祀と墓の祭祀をともにする程度で、族的結合は希薄になる。ただし、こうした弱少集団も政治的結合の必要や経済力の増大に伴って、まとまりが顕在化することもある。
宗族が強い機能をもつのは、地域集団化していることも一つの条件になる。一村落の大半が同一宗族で占める、いわゆる単姓村や、複姓村であっても一定の区画に集まり住んでいる場合、日常の相互協力や外敵からの防御に有利である。また一集落にとどまらず、隣接数集落にわたって万を超す人口が集まっている例も華南や台湾中部においてみられる。
このような経済力を反映し分化をとげた宗族の構成は、未開社会に多くみられる均質な個人を単位とする単系出自集団の場合とは対照的であり、中国のような文明社会で父系組織が根強く機能しえた原因の一つであった。また、中国の伝統的政治機構も、たとえば藩政期の日本のように個々の農民を直接掌握せず、在郷地主であり知識人でもある郷紳層を介しての間接的なもので、村落レベルでの紛争も反乱に結び付かない限り、これら有力者を中心とした自治に任されていたことも、宗族の結合を強めた。宗族内から高級官吏資格試験である科挙の合格者を出すことは、単なる名誉にとどまらず、地方政治における利害関係と結び付いていた。またときに武闘を交えた各宗族間の勢力争いに生き残るためには、内部に矛盾や対立を抱えていても、外に対しては団結する必要があった。多額の費用と労力を要する族譜の作成や、豪華な装飾を施した祖廟(そびょう)ないし祠堂(しどう)、莫大(ばくだい)な面積を占める族田の存在は、こうした脈絡において意味をもつのである。
以上のような宗族は、宋(そう)代以降おもに華南において発達した。その原因としては、〔1〕名族が南に移り新開地で展開形成した、〔2〕入植開拓の際に必要であったこと、〔3〕治安の悪さから一族団結が必要であったこと、〔4〕水稲耕作による高生産力を維持するため、などと結び付けた説明が試みられている。
[末成道男]
『モーリス・フリードマン著、末成道男他訳『東南中国の宗族組織』(1991・弘文堂)』
《爾雅(じが)》釈親に〈父の党を宗族となす〉というように,中国において,女系を排除した共同祖先から分かれる男系血続のすべてを〈宗族〉といい,〈同族〉〈族党〉〈族人〉などの語も同義である。宗族と〈親族属〉とは違う。〈親属〉は日本語の親族と同じで,自己の宗,すなわち〈本宗〉(〈本族〉)と婚姻関係で結ばれた〈外姻〉とを含む。外姻は〈同姓不婚〉の原則が示すように必ず他姓である。しかし〈姓〉には歴史的変遷があり,同宗ならば必ず同姓であるが同姓は必ずしも同祖と限らない。天子の恩恵としての賜姓やその他改姓があるからである。同祖であることは同宗であることによって確認できる。したがって同姓不同宗ということがあって,この場合は通婚の禁止は法の上でなく,事実の上で多少はゆるめられることがある。同姓不婚は要するに共同祖先の男系の血脈内での通婚禁止の制である。同姓不婚と表裏をなすものとして〈異姓不養〉がある。男系の血続を維持するため,娘に他姓から養子を迎えて本族を継がせるようなことはせず,養子の必要があれば必ず同姓から迎える。娘は他に子がなくても他姓の男子と結婚させ,家に残さないのである。同姓不婚も異姓不養も宗族関係から生ずる帰結である。この両者は太古から認められた原則で,近年に至るまで固く守られてきた。
秦・漢以後,集権的国家構造が発達していく状況のもとに,宗族の枠組みが統治のために利用され,あるいは宗族の枠組みの上に国家秩序維持の体制を組みたてるようになり,同姓不婚・異姓不養は儒学の発達に伴って〈礼〉という外被をまとってますます徹底する方向に進んだといえる。男系の血縁という側面からみれば,宗族は自然的結びつきであるが,集団として国家の中に位置しているという側面では社会的,政治的にさまざまの性格を付与されるのは当然である。この両面を基本的に規制する任務を負ったのが〈宗法〉である。宗法は宗族を支えるとともに旧中国社会の根幹を全体的に支えたのである。
執筆者:奥村 郁三
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中国の父系同族集団。同姓不婚の原則に立ち,女系は含まない。中国では早くから小型家族が一般化したが,地主豪族は同族間の結合が強く,漢・六朝(りくちょう)の豪族勢力は郷里における宗族聚居の形をとった。隋唐ではこの結合は弱まったが,宋以後新興地主は再び宗族を強化し,族長のもとに宗祠を設け,族産(祭田,義荘(ぎそう)などの宗族共有の土地)を置くものが多く,特に華中,華南に普及した。
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…同名の老舎の小説がある)を理想とする。しかし,頂点となる老夫婦の死後は,家産が均分相続されるため,宗族(中国の厳しく父系を守る同族)の宗家(本家)に統制力が乏しいだけでなく,家はそれぞれの息子夫婦ごとの家族核の単位に容易に分裂する。したがって家は拡大と分裂を不断に繰り返すのが特徴である。…
…親属は〈本族〉(〈本宗〉)と〈外姻〉とに分かれる。本族とは〈宗族〉と同じだが自己の属する宗族を本族といい,外姻は妻の実家,娘の嫁ぎ先の関連で同姓不婚の制によって他姓である。妻は夫の本族に帰属するが姓は変わらない。…
…――もちろん,おじ,おば,いとこ,などの親族というものの存在すること,それが何かと家事に口を出すこと,日本と変りはない。普通,中国の大家族といっているものは,(1)前述のごとくそれぞれ家計を異にする近親が同居もしくは近接居住する風習を指すものであるらしいが,(2)しかし同時に指摘すべきは別に宗族というものがあるということである。つまり同一の祖先から分かれた諸家族(なかには相当遠隔地に住むものもいる)の結合組織で,その血縁系統を示す族譜,族約(祭祀の規則,貧困者救済,学資補助,一族に恥辱をもたらした者に対する制裁など)をもち,族長の主催によって定期に祖先祭祀を行い,親睦をはかる。…
※「宗族」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...
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