日本大百科全書(ニッポニカ) 「痴人の告白」の意味・わかりやすい解説
痴人の告白
ちじんのこくはく
En dåres försvarstal
スウェーデンの作家ストリンドベリの小説。1887年秋から88年春にかけてフランス語で書き(その表題はPlaidoyer d'un fou)、発表の意志はなかったが、93年不完全なドイツ語訳が現れ、内容について裁判沙汰(ざた)となる。フランス語版は95年、スウェーデン語版は死後の1914年、全集の一冊として刊行された。最初の妻シリ・フォン・エッセン(作中のマリア)に対する愛憎の吐露で、四部に分かれる。第一部で美化して描かれた女主人公は、第二部以下では、冷血非情の姦婦(かんぷ)、男は利用されるばかりの哀れな犠牲者のごとくに描かれる。彼の徹底した女性憎悪の思想は、精神病的資質に由来し、実際のシリがここに描かれたままの女性であったとは断じられない。原題は「ある阿呆(あほう)の弁明」の意で、多分に女性攻撃の書であることは、この作品の最後にみえる一句「私は復讐(ふくしゅう)を遂げた、これであいこだ」からも想像できよう。
[田中三千夫]
『山室静訳『痴人の告白』(『世界文学全集10』所収・1955・河出書房)』