日本大百科全書(ニッポニカ) の解説
直接メタノール形燃料電池
ちょくせつめたのーるがたねんりょうでんち
direct methanol fuel cell
固体高分子形燃料電池で、水素のかわりにメチルアルコール(メタノール)を燃料とし、水素ガスに改質せず、その水溶液を負極へ直接導入するもの。メタノール‐空気形燃料電池ともいわれる。日本では、1998年(平成10)より新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO(ネド))による開発プロジェクトが始動している。電極反応は
(負極)
CH3OH+H2O―→CO2+6H++6e-
(正極)
1.5O2+6H++6e-―→3H2O
(全体)
CH3OH+1.5O2―→CO2+2H2O
のように考えられている。90℃で加圧空気を使用すると約230mW/cm2の出力密度が得られるので、10~1000ワットの可搬形が研究されている。白金‐ルテニウム触媒量として通常2.5~4mg/cm2が必要とされ、100mW/mgの触媒利用率である。しかし触媒量をできるだけ少なくし、コストの削減を図るため、カリフォルニア工科大学では2000年にスパッター析出法によりきわめて活性な無担持形の白金‐ルテニウム触媒を作成しており、0.03mg/cm2という極少量で70~100mW/cm2の出力密度を得ている。この時の触媒利用率は2300mW/mg以上に達する。
この直接メタノール形燃料電池では、改質器やCO変性器などが不要であり、それだけ小形化が可能である。しかしメチルアルコールが固体高分子電解質膜を透過して正極で酸素と反応し、メチルアルコールの利用率が低下すること、それにより正極電圧が低下し、電池電圧が低くなるなどの課題がある。そのため運転温度を100℃近くに上げて電池電圧を高めたり、またメチルアルコールの透過率を下げるためにポリビニルアルコールにモルデナイトを加えたプロトン導電性の複合膜をはじめ、種々の固体高分子電解質膜が研究開発されている。
一方、携帯電話などのモバイル機器の消費電力が増大してきており、それに対処するため、リチウムイオン二次電池にかわって、その10倍のエネルギー密度(1300Wh/kg)をもつ超小形で室温作動の直接メタノール形燃料電池の開発が進められている。固体高分子電解質膜の両側に触媒のついたカーボンを塗布したものなどである。この燃料電池の大部分はメチルアルコール水溶液を入れた燃料カートリッジであり、交換して燃料を補給できる。酸素源は空気を利用する。またスタック化して電圧を高めることが可能である。触媒を担持するカーボンに、カーボンナノチューブの一種であるナノホーンを用いるなどの方法により、出力の向上が図られている。
[浅野 満]
『電気化学会編『電気化学便覧』(2000・丸善)』▽『『固体高分子型燃料電池の開発と応用』(2000・エヌ・ティー・エス)』▽『日本化学会編『新型電池の材料化学 季刊化学総説No.49』(2001・学会出版センター)』▽『電池便覧編集委員会編『電池便覧』第3版(2001・丸善)』▽『山田興一・佐藤登監修『新エネルギー自動車の開発と材料』(2001・シーエムシー)』▽『『燃料電池の開発と材料――開発動向と特許展開』(2002・シーエムシー出版)』