電極と,それに接する電解質溶液との間で進行する電気化学的な反応で,半電池反応half-cell reactionともいう。電極反応全体は,溶液相中の物質と電極相との間におこる電荷のやりとり(不均一系電荷移動)と,それに伴って進行する各種の化学反応などから構成されている。電極反応がいずれかの方向に進行すると,電極-溶液界面を通して電荷が移動して電流が流れる。この電流を電解電流electrolytic currentまたはファラデー電流faradaic currentといい,その大きさは電極反応の速度に比例する。電池を構成している一組の電極のうち,アノードでは電極反応が酸化方向に進行し(アノード反応anodic reaction),カソードでは還元方向に進行する(カソード反応cathodic reaction)。電極反応の速度は,電極の材質や表面状態,温度,圧力などの要因のほかに,電極電位(または過電圧)によって大きく変化する。電極反応をOx+ne⁻⇄Red(OxおよびRedは,ある酸化還元系の酸化体および還元体,e⁻は電子,nは反応に関与する電子数)とすると,電解電流密度jと過電圧ηとの関係が次式で与えられる(ただし,電極反応速度はOxおよびRedについてそれぞれ1次とし,反応が全体として酸化方向に進むときに流れる電流の符号を正と約束する)。
ここで,Rは気体定数,Tは絶対温度,Fはファラデー定数,cは電極面における濃度,c°は平衡時(j=0のとき)の濃度,j0は交換電流密度,αは転移(または移動)係数とよばれるパラメーターである。転移係数は,電荷移動過程に対して電気的エネルギーがどのように寄与するかを表すパラメーターで,0と1の中間の値(通常0.5近傍)の量である。電極反応の平衡状態では,電極電位が平衡電極電位を示し(したがってη=0),酸化方向への電流と還元方向への電流の大きさがともにj0に等しく,互いに打ち消し合って,結局全電流がゼロ(j=0)となる。電池の充放電,電気めっき,水の電気分解などにおいては,各電極面における電極反応が基本的に重要な役割を果たしている。
→電気分解
執筆者:玉虫 伶太
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
1対の電極を電解質溶液中に入れ、この電極間に電圧をかけたときに、電極‐溶液の界面で進行する電気化学的な不均一系反応をいう。この場合、負の電位のかかった極(陰極)上では陽イオンの還元(たとえば、水素イオンの水素分子への還元、2H++2e→H2)がおこり(陰極反応という)、また正の電位のかかった極(陽極)では陰イオンの酸化(たとえば、塩化物イオンの塩素分子への酸化2Cl-→Cl2+2e)が同時におこり(陽極反応という)、電解電流(ファラデー電流ともいう)が流れる。いまこのなかの一つの電極について、この電極にかけた電位と電解電流との間の関係を調べると、両者の間には、
の関係が成立する。ここでiは電解電流の大きさを、ηはその電極上でおこる陰極または陽極反応O+neR(Oは酸化状態、Rは還元状態)が平衡にある場合の電極の電位を基準(電位0ボルト)として測った動作時の電極の電位、すなわち過電圧を、Tは絶対温度、またRは気体定数、αは定数で、反応によって異なった値をとる。この式をターフェル式という。ほかの化学反応と同様に、電極反応が平衡にあるときには、この反応の左に進む反応速度と、右に進む反応速度とが等しいと考えられる。この反応速度を交換電流という。電極反応を調べるのには、ターフェル式についての考察のほか、電極‐溶液間のインピーダンス測定、電気容量の測定などが行われる。
[戸田源治郎]
狭義には,電子伝導体である電極とイオン伝導体である電解質溶液(あるいは電解質)との界面を通しての電荷の移動によって起こる酸化還元反応(電荷移動反応という).一般には,それに付随して電極-溶液界面あるいはその近傍において起こるすべての過程,たとえば電荷移動反応に先行あるいは後続して起こる拡散,化学反応,吸着などを含めて電極反応という.したがって,電極反応は一つ以上の電荷移動反応を含む複合反応である.電荷移動反応は電極反応の本質的なものであり,次の特徴がある.
(1)不均一系反応である.
(2)その進行とともに,電極-溶液界面を通して電流が流れ,電流密度電極の単位面積当たりの電流の大きさは,ファラデーの法則により,電荷移動反応の速度のnF(n:関与する電子数,F:ファラデー定数)倍で与えられる.
(3)電荷移動反応の速度は電極電位に指数関数的に依存する.
(4)電荷移動反応の速度論的な特性は,電極反応の速度論的パラメーターによって表される.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
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