家庭医学館 「先天性眼瞼下垂」の解説
せんてんせいがんけんかすい【先天性眼瞼下垂 Congenital Blepharoptosis】
生まれつき、上まぶた(眼瞼)が下がっている状態です。その多くは、まぶたをつり上げる上眼瞼挙筋(じょうがんけんきょきん)という筋肉の発育不全によるもので、単純性下垂と呼ばれます。
どちらか片側の目に出る(片眼性(へんがんせい))ことがやや多いようですが、両側の場合(両眼性(りょうがんせい))もあります。神経の異常はともないませんが、目を上に動かす筋肉(上直筋(じょうちょくきん))の機能不全をともなうことがあります。
[原因]
おもに、上眼瞼挙筋の発育不全が原因ですが、このほかに先天性動眼神経(せんてんせいどうがんしんけい)まひ、マーカスガン現象(下垂した片側のまぶたが、口を開くとともに上がる現象)などの神経の異常や重症筋無力症(じゅうしょうきんむりょくしょう)、進行性外眼筋(しんこうせいがいがんきん)まひ、瞼裂狭小症候群(けんれつきょうしょうしょうこうぐん)などによってもおこります。
瞼裂狭小症候群は、優性遺伝する先天異常で、瞼裂(上まぶたと下まぶたの間)の水平径、垂直径の双方が縮小して、目と目の間が離れたようにみえます。
また、一見、眼瞼下垂があるようにみえますが、真の下垂ではない偽眼瞼下垂(ぎがんけんかすい)もあり、小眼球(しょうがんきゅう)(先天性のもので、眼球が正常に比べて著しく小さい)や無眼球(むがんきゅう)(手術などによる眼球の摘出)など眼窩(がんか)の容積の減少、上斜視(じょうしゃし)などにともなっておこります。
眼瞼下垂の原因は、このようにさまざまですので、まず専門の眼科医の診断を受けることがたいせつです。
先天性眼瞼下垂では、斜視(しゃし)(「斜視」)や弱視(じゃくし)(「弱視」)をともなうことが少なくありません。通常は、弱視の程度は軽いことが多いのですが、下垂が重度になればなるほど、弱視をともなうことが多くなるといわれています。
弱視の成因としては、斜視によるものや屈折異常、とくに乱視(らんし)によるものが多く、弱視治療のためにめがねをかける必要があることもあります。
眼瞼下垂がまるで目をつぶっているようにみえるほど重度の場合には、視界が妨げられるため視機能の発達がおかされる視性刺激遮断弱視(しせいしげきしゃだんじゃくし)をおこすこともあります。この場合には、早期の手術が必要になります。
[治療]
下垂の程度が強く、視性刺激遮断が強く疑われる場合以外は、早期に手術を考える必要はありません。下垂があっても、下向きのときには目が開いていることが多く、あごを上げてものを見ようとすることが多いので、たいてい視機能は正常に発達しているものです。
子どもの顔面の発達と検査が十分に行なえる時期を考えると、手術は3~4歳以降がよいでしょう。手術は1時間程度で終わりますが、過矯正(かきょうせい)、低矯正がおこることがあります。とくに過矯正の場合には、目が閉じなくなる(兎眼症(とがんしょう)(コラム「兎眼症」))ことがあります。
両眼性の場合には、両方の目を手術することも、また程度が軽いほうの目に重いほうの目を合わせるように、片方の目だけ手術をすることもあります。
眼瞼下垂のほかに、屈折異常や弱視がある場合は、できるだけ早期から屈折矯正と弱視治療を行なっておくことがたいせつです。
斜視がある場合には、手術前はまぶたが下がっているため斜視がわかりにくかったのが、手術後には斜視が目立つようになることもあるので、この場合には、眼瞼下垂と一緒に斜視の手術を行なうことがあります。
治療としては、基本的に手術しかないのですが、手術はあくまでも外観を整えることを目的としているだけで、その奥にある目の機能を正常に発達させることが先決と覚えておきましょう。