出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報
運動を起こす命令は、電気刺激として神経を伝わっていき筋肉を収縮させます。神経と筋肉の間には神経筋接合部というすきまがあり、ここではアセチルコリンという物質が刺激の最終的な伝達を担っています。重症筋無力症は、この伝達が十分になされないために、筋肉の収縮が弱く、次第に神経の命令どおりに筋肉が動かなくなり、疲労してしまう病気です。
筋肉の表面には、神経の命令を伝えるアセチルコリンを受け取るアセチルコリン受容体といわれる場所があります。この場所が自己抗体でふさがれるために伝達障害が起こることが原因です。自己抗体は、体のなかに備わる免疫機構の障害で生じるのですが、その原因はまだ不明です。
免疫の中継基地である
10歳以下と30~50代に発症のピークがあります。小児期発症例は眼の筋肉に症状が出てくる
小児例の10%には全身の脱力、声が出にくい、飲み込みにくい、息がしづらいといった全身の筋肉に症状を起こす全身型がみられます。このタイプでは、呼吸筋の麻痺で時には生命を脅かす状態をも引き起こすことがあります。重症筋無力症の症状を悪くする誘引として、予防接種、ストレス、さまざまな感染症などがあります。また、症状を悪化させる抗生剤などの薬もあるので注意が必要です。
抗アセチルコリンエステラーゼ薬を注射し、筋無力症の症状が軽くなるかどうかで診断します。注射によってアセチルコリンを分解する酵素であるアセチルコリンエステラーゼを少なくし、アセチルコリンの伝達力を高めることを利用するテンシロンテストという検査です。
そのほか、神経に電気刺激を加えた場合の筋肉に起きる活動電位の変化をみる筋電図でも診断することができます。重症筋無力症の場合、活動電位の振幅が次第に減少していく様子がみられます。血液検査でアセチルコリン受容体に対する自己抗体の抗体価を直接測定することでも診断できますが、すべての例で高値を示すとはかぎりません。
小児に多い眼筋型では、まず抗コリンエステラーゼ薬の内服治療が行われます。神経筋接合部におけるアセチルコリンの濃度を高めて作用時間を長くし、筋肉にあるアセチルコリン受容体への反応を高めて症状の軽減を図ります。これで効果のない場合や全身型では、自己免疫過程を抑える目的で、副腎皮質ステロイド薬が使われます。急性期は点滴や経口で大量に使い、症状が安定すれば減量して2~3年間使います。
症状が激しい場合には抗体を取り除くために
日内変動を伴う筋力低下に気づいたら病院を受診してください。予防接種、抗生剤などの薬剤の使用、過度な運動や過労、むし歯や
平松 公三郎
骨格筋の
神経細胞が興奮すると、神経末端からアセチルコリン(神経伝達物質)が放出されて、運動終板にあるアセチルコリン受容体にはたらいて筋肉の収縮を起こします。その後、アセチルコリンは、ただちにコリンエステラーゼという酵素により分解されて神経末端に戻り、アセチルコリンに再合成されます。
重症筋無力症は、自分のアセチルコリン受容体に対する抗体(蛋白質)を作り出し、この抗体が受容体を壊すことで神経筋の連絡を阻害するのが原因で発症します。発症には胸腺の異常の関与が推定されますが、その機序は不明です。
病型としては、眼筋型や全身型に分類されます。眼筋型の80%以上は2年以内に全身型に移行します。胸腺肥大や腫瘍を高率に伴い、種々の自己免疫疾患や悪性腫瘍を合併します。
多くは、
眼以外では、顔面筋が侵されることにより、閉眼力の低下や、顔面の表情が少なくなって筋無力性
これらの症状の特色は、運動により悪化し、安静により改善するという易疲労性をもち、また朝方はよく、夕方に悪くなるという日内変動があるということです。
治療中に症状が急激に変化し、四肢の高度の筋脱力に加えて
テンシロン試験という短期作動型コリンエステラーゼ阻害薬の静脈注射で、一過性に症状が改善するかをみます。筋電図では、低頻度で反復刺激し振幅が漸減するかを調べます。
抗アセチルコリンレセプター抗体検査は、全身型では80%が陽性で診断的価値の高い検査です。
これらの検査で診断を行います。
神経筋伝達障害については、コリンエステラーゼの活性を抑え、神経末端から放出されたアセチルコリンの作用を増強させる長期作動型抗コリンエステラーゼ薬が用いられます。
眼筋型では、この長期作動型抗コリンエステラーゼ薬が治療の中心となります。全身型の場合は、胸腺摘出術とステロイド薬の大量投与療法が根本的治療の原則です。
その他、ステロイド薬以外の免疫抑制薬、血液浄化療法、大量
内科、とくに神経を専門とする医療機関を受診してください。
藤井 正司
重症筋無力症は、
重症筋無力症の場合は、自分の神経筋接合部(運動
アセチルコリンを分解しているのはコリンエステラーゼという物質です。そこで、コリンエステラーゼのはたらきを阻害する薬剤が投与されて、薬効が確認されたのが重症筋無力症の治療の第一歩でした。
その後、自己免疫疾患であることが判明して以来、副腎皮質ステロイド薬のような免疫抑制薬の投与や、血液からの抗体除去治療が行われるようになりました。
症状は、物を噛むだけでも疲れてしまうという明らかな易疲労です。朝は軽く、夕方に増悪するという日内変動を示します。複視といって、物が二重に見えたり、まぶたが下がって(
重症の場合は呼吸ができなくなり、人工呼吸器を必要とすることもあります。
テンシロンテストという、作用時間の短い抗コリンエステラーゼ薬を静脈注射すると劇的に改善するので、診断に有用です。血液検査で、抗アセチルコリン受容体抗体値を測定します。筋電図検査での運動神経連続刺激も診断には有用です。
コリンエステラーゼの活性を抑え、神経末端から放出されたアセチルコリンの作用を増強させる治療を行います。作用時間の長い薬剤が使われます。
免疫抑制薬として副腎皮質ステロイド薬やアザチオプリンなども投与されます。抗アセチルコリン受容体抗体を取り除くために、
胸腺を摘出する手術も考えます(コラム)。長期的には手術療法の有効性が明らかなので、手術がすすめられます。
クリーゼといって、治療中に症状が急激に悪化することがあります。これには筋無力症自体が重症化する場合と、抗コリンエステラーゼ薬の過剰投与で症状が悪化する場合の2つの可能性があります。前述のテンシロンテストにより、2つのどちらであるかを判定します。
つまり、作用時間が短い抗コリンエステラーゼ薬を投与すると、重症筋無力症が悪化している場合は症状が改善しますし、薬剤治療の過剰で症状が悪化している場合は一時的に症状が悪化します。
生活上の注意としては、過労やストレスのかかるような生活は避けるように注意します。
石原 傳幸
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報
代表的な難病(厚生労働省特定疾患)の一つにあげられており、しばしば頭文字からMGと略称されている。神経‐筋接合部の障害によって四肢の筋の運動を繰り返すと脱力が生じ、休息によってふたたび筋力が戻ってくる特異な症状を示すのが特徴である。原因は不明であるが、神経から興奮を伝える物質アセチルコリンの受容体のタンパク質に対する抗体が血液中に現れ、これが筋肉にある受容体と結合して受容体を壊してしまうために、神経からの興奮が手足の筋肉に十分伝わらず、脱力をおこすことが明らかとなった。血清中にあるこれらの抗体値を測定し、高い場合には血漿(けっしょう)交換をすると症状が速やかに改善することも明らかとなり、現在、自己免疫疾患の代表と考えられている。
MGは新生児から老人まで、どの年齢層にもおこるが、新生児では母親がMGである場合、一過性に症状の発現をみるのみである。日本では5歳以下と30歳代に多く、女性が男性の約2倍である。症状は眼瞼(がんけん)下垂か眼筋麻痺(まひ)で始まることが多く、進行すると嚥下(えんげ)、呼吸、四肢の筋力低下を生じ、ときに急性増悪(クリーゼ)して呼吸麻痺をおこす。大部分の患者は胸腺(きょうせん)の肥大をもち、一部は胸腺腫(しゅ)を合併している。筋の脱力は運動により増悪し、安静により回復するが、日内変動するのが特有で、抗コリンエステラーゼ剤を投与すると、ただちに一過性の症状改善がみられる。これは診断法として用いられる。治療には、対症療法として抗コリンエステラーゼ剤の投与が行われ、一過性の筋力維持に使われているが、根本療法として胸腺摘出術、免疫抑制剤投与、血漿交換法などにより、約7割の患者は完全寛解をみるようになった。
[里吉営二郎]
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
若い成人女性に多く,随意筋が疲れやすく,動作を反復持続することが困難となり,ついには麻痺を呈する疾患。疲労や麻痺は休息によって回復する。難病の一つ。とくに眼瞼下垂,眼球運動の障害,構音障害,嚥下障害を起こしやすい。症状に悪化と軽快の波があり,1日のうちでも,朝は障害が軽く,夕方に向かうにつれて症状が強くなる。筋電図では,徐々に活動電位が低下する減衰現象がみられる。症状は抗コリンエステラーゼ剤の使用によって軽快することから,この疾患の診断にも利用される。神経筋接合部での興奮の伝達が障害されており,筋肉にあるアセチルコリン受容体に対する抗体価が高くなることや,胸腺の過形成,胸腺腫あるいは他の自己免疫疾患が合併することなどから,自己免疫疾患であると考えられている。治療としては,抗コリンエステラーゼ剤や副腎皮質ホルモン剤の投与のほか胸腺摘出術が行われるが,免疫抑制剤を用いたり,血漿交換療法なども行われる。
執筆者:水沢 英洋
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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