硫化リン(読み)リュウカリン

化学辞典 第2版 「硫化リン」の解説

硫化リン
リュウカリン
phosphorus sulfide

多数の硫化リンが知られている.すべて P4 四面体のP-P結合をP-S-P結合に置き換えた構造をもつ.【】三硫化四リン(tetraphosphorus trisulfide):P4S3(220.09).三硫化リンともいう.硫黄二硫化炭素溶液に二硫化炭素中で融解させると得られる.安定な黄色の斜方晶系結晶.密度2.03 g cm-3.融点174 ℃,沸点408 ℃.水に不溶,二硫化炭素,ベンゼンに可溶.硫化リン中もっとも安定である.室温では水とは作用しないが,熱水で徐々に分解し,硫化水素リン酸を生じる.酸素があると,高温または二硫化炭素中では容易に酸化される.マッチの原料有機合成に用いられる.[CAS 1314-85-8]【】五硫化四リン(tetraphosphorus pentasulfide):P4S5(284.22).五硫化リンともいう.二硫化四リンと硫黄の二酸化炭素溶液に,触媒として少量のヨウ素を加え,光を照射すると得られる.黄色の単斜晶系結晶.密度2.17 g cm-3.二硫化炭素に可溶.170~220 ℃ で分解し,P4S3とP4S7を生じる.[CAS 12137-70-1]【】七硫化四リン(tetraphosphorus heptasulfide):P4O7(348.36).七硫化リンともいう.赤リンと硫黄の混合物を融解すると,五硫化四リンとともに生成するので二硫化炭素で抽出すると得られる.淡黄色の単斜晶系結晶.密度2.19 g cm-3.融点308 ℃,沸点523 ℃.二硫化炭素に微溶.硫化リン中ではもっとも加水分解されやすく,熱水でただちに分解し,硫化水素とリン酸を生じる.酸素を含む有機化合物を,硫黄を含む化合物にかえる作用は,硫化リン中ではもっとも強い.[CAS 12037-82-0]【】十硫化四リン(tetraphosphorus decasulfide):P4S10(444.55).五硫化リンともいう.硫黄を赤リンと反応させると得られる.工業的には,白リンと硫黄を原料にして不活性雰囲気下で300 ℃ 以上に加熱し蒸留する.二硫化炭素中では重合体のP4S10として存在し,気体ではP2S5として存在する.黄色の三斜晶系結晶.密度2.09 g cm-3.融点288 ℃,沸点514 ℃.二硫化炭素に微溶.加水分解して硫化水素とリン酸を生じる.酸素を含む有機化合物を硫黄を含む化合物にかえるはたらきがある.農薬殺虫剤,医薬品,各種潤滑油添加剤などの原料に使用される.ただし,環境問題に対する懸念,さらに摩耗低減用の自動車エンジンオイル添加剤は排気ガス浄化触媒の触媒毒となるため,農薬,オイル添加剤としての需要は急減している.

「硫化燐」は毒物及び劇物取締法・毒物,「硫化燐を含有する製剤」は劇物.労働安全衛生法・名称等を通知すべき危険物及び有害物,大気汚染防止法・有害大気汚染物質.消防法・危険物第二類(可燃性固体).[CAS 1314-80-3]

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

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