改訂新版 世界大百科事典 「磐司磐三郎」の意味・わかりやすい解説
磐司磐三郎 (ばんじばんざぶろう)
狩猟伝承にみられる狩人の名。この名をもつ2人,または磐司が姓という1人の狩人がまたぎの祖先であるという。磐次磐三郎とも書き万治(次)万三郎ともいう。仙台市西方奥羽山脈を越える二口峠に磐司巌(ばんじいわ)と呼ぶ巨岩が対立した場所があり,ここが磐司磐三郎の住処であったと伝え,また山形県立石(りつしやく)寺の山中を狩場としたともいう。この伝承は,もと次郎・三郎と呼ばれる2人の狩人があり,一方は山の神を援助してその礼に獲物を授けられ,他方はそれを断って山の幸を失ったという運勢の優劣を説明する神話の一類型であった。同じ型の伝承は九州で大摩小摩(おおまこま),日光付近の山地では大汝小汝(おおなんじこなんじ)の対立譚として語られる。四国や北上山地北部では西山小猟師と東山大猟師という語りかたもあって,古くは全国の山中に流布したらしく,伊豆半島の天城連峰には万二郎岳,万三郎岳の二つが並んでいる例もある。万次万三郎という一人の狩人のこととする語りかたでは,日光権現を助けて赤城明神を射た猟師とされ,その神戦のようすを記した巻物は《山立根本巻》という狩人の祖先の功名を物語るマタギの秘巻となって東北地方の山間各地に分布している。山寺立石寺では磐三郎は慈覚大師に山を譲って秋田の阿仁(あに)に移り,マタギの開祖となったとも伝える。この点は一人の名称とする方が新しい類型で,マタギの口伝えで,《日光山縁起》などと結びつけたものらしい。
→狩猟伝承 →ムカデ
執筆者:千葉 徳爾
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報