一般に、投資家が企業の経済性と同時に社会性をも評価し投資すること。略称SRI。広義にSRIをとらえると、次の三つのスタイルが含まれる。
(1)ソーシャル・スクリーン 企業の環境、雇用、人権の対策や社会貢献活動などを評価し、経済的評価と組み合わせて投資対象銘柄を選定し投資すること。
(2)株主行動 株主として、企業の社会的・環境的な問題に対して株主総会で提案したり、事前に経営者に改善策を申し入れたりすること。
(3)コミュニティ投資 とくにアメリカなどでみられるように、荒廃した地域の再開発を進めるために行われる投資。このうち日本で注目を集めているのはおもに(1)のスタイルである。ここでは(1)に焦点をあて解説する。
本来企業は経済的な組織として、売上高、利益率などの経済的成果によって評価されてきたが、企業の規模や影響力が大きくなるにつれ社会的な責任が問われるようになり、社会的・環境的な取り組みについても評価されるようになってきた。企業の社会的責任とは、企業の経営活動のプロセスに社会的公正性や環境への配慮を組み込んでいくことであり、株主、従業員、顧客、地域住民などステークホルダー(利害関係者)に説明責任(アカウンタビリティ)を果たすことである。SRIとはこういった社会的責任を果たしている優良な企業に投資することである。
SRIの歴史は古く、その起源は1920年代から教会がその資産運用にあたって、アルコール、タバコ、ギャンブルなどにかかわる企業を投資対象から除外したことに始まる。その後1970年代に入って、アメリカで企業に社会的責任を求める運動が高まり、投資対象にベトナム戦争にかかわる企業を組み込まない、また1980年代にはアパルトヘイト政策を行っている南アフリカと交易する企業を組み込まない、といった投資行動が広がった。1990年代に入ると地球環境問題や開発途上国での工場の操業状況、人権対策も問われるようになり、持続可能な発展(サステイナブル・ディベロップメント)を求めるグローバルな動きが強まるなか、SRIも広がっていく。SRIの担い手は投資信託を購入する個人投資家が中心であったが、1990年代後半からは機関投資家がその運用にSRIを組み込み始める。つまり、中長期的に企業の株を保有し運用する機関投資家は、企業の社会的・環境的なパフォーマンスについても評価することを重視し始めたからである。2000年代に入ると、企業不祥事を契機に企業の透明性の問題が厳しく問われるようになり、SRIの評価基準も広がっている。
このように財務的指標にとどまらず、社会、環境さらにコーポレートガバナンス(企業統治)を包括した非財務的指標も含め、企業をトータルに評価することで、SRIが一般の投資判断のなかにも組み込まれ始めている。イギリスでは2000年の年金法改正により、投資先の社会的評価を行っているかどうかを公表する義務が課せられているし、オランダなどでは年金基金は通常の資産運用にSRIを組み込んでいる。このような状況のなか、SRIの規模は拡大し、アメリカではソーシャル・スクリーンによる投資総額は1997年に5290億ドルであったものが2003年には2兆1430億ドルと約4倍に伸び、株式市場全体の11.3%に達した。またイギリスでは1997年227億ポンドであったが2001年には2245億ポンドと約10倍に伸び、株式市場全体の12.7%に達した。2014年初めの時点でアメリカのSRI投資総額は6兆5722億ドル、2013年末時点でヨーロッパは9兆8850億ユーロ(うち、イギリスは1兆9731億ユーロ)である。
一方日本のSRIは未成熟である。1999年(平成11)、環境面を考慮に入れたエコ・ファンドが登場して以降、2003年(平成15)末までに16本のSRI型投資信託が出たが、その総額は866億円、投資信託(公募型)全体の0.4%にすぎなかった。これまで企業に社会的責任を求める動きは活発ではなかったし、個人投資家も多くないなかで、SRIはなじみの薄いものであった。しかし2002年ごろから、企業に社会的責任を求めるグローバルな潮流を受け止め、産業界での取り組みは活発になった。市民の関心も高いことからSRIが広がり、2007年末には1兆1207億円と約13倍に伸びた。2014年時点のSRI投資総額は、2008年に登場した社会貢献債を含め9217億円で、欧米に比べると依然として規模は小さい。
[谷本寛治]
(高橋宏幸 中央大学教授 / 2008年)
(熊井泰明 証券アナリスト / 2007年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報
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