労働者が使用者に対して、労働契約に基づいて労働を提供するに際してのあらゆる条件をいい、雇用条件あるいは勤務条件とほぼ同義に用いられる。具体的には、基本給、諸手当、賞与(ボーナス)、退職金などの賃金の内容、社宅や独身寮、社員食堂、レクリエーション施設、医療施設、保養所などの福利厚生の内容、1日の労働時間、週当り労働時間、完全週休二日制かどうかという週休制の内容、年次有給休暇の日数、特別休暇の内容や国民の祝日などの扱い、交代制勤務の有無などの労働時間・休日・休暇に関する内容、育児休業制度や介護休業制度の有無と利用条件、新人教育や階層教育、企業外研修の有無などの企業が提供する能力開発機会の内容、業務遂行する職場の安全や衛生を確保する設備の状況、勤務地や転勤の可能性、定年年齢と定年退職後の雇用継続の可能性などを含む。
日本国憲法第27条において、「賃金、就業時間、休息その他の勤労条件に関する基準は、法律でこれを定める」としている。これを受けて、労働基準法、最低賃金法、労働安全衛生法、男女雇用機会均等法、育児・介護休業法、高年齢者雇用安定法など数多くの法律が制定されている。
労働基準法は、第1条で、「労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければならない」とし、第2条で「労働条件は、労働者と使用者が、対等の立場において決定すべきものである」としている。また、第15条で「使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない」と規定している。同法施行規則において、必ず明示しなければならない事項(絶対的明示事項)として、(1)労働契約の期間、(2)就業の場所および従事すべき業務、(3)始業および終業の時刻、残業の有無、休憩時間・休日・休暇、交替労働の内容、(4)賃金の決定、計算および支払方法、賃金の締切りおよび支払時期、昇給、(5)退職に関する事項を掲げている。また、定めがある場合には明示しなければならない事項(相対的明示事項)として、(1)退職手当、(2)賞与など臨時賃金、最低賃金額、(3)安全衛生、(4)職業訓練、(5)災害補償、(6)表彰および制裁、(7)休職などに関する事項を掲げている。
労働条件のなかでも、賃金については労働基準法や最低賃金法で最低基準が定められている。労働時間、休日、休暇に関しては労働基準法で最低基準が定められており、同様に、育児休業、介護休業については育児・介護休業法で、定年年齢や定年退職後の雇用継続に関しては高年齢者雇用安定法で、最低基準が定められている。職場の安全衛生の設備や水準に関しては、労働安全衛生法で最低基準について詳細に定められている。法律でとくに言及していない場合には、各企業が自由に決定できることになる。
労働条件は企業によってかなり異なるが、とくに日本の場合には、大企業と中小企業との間では労働条件にかなりの違いがみられる。
労働条件のなかでも賃金や労働時間、休日、休暇など主要事項については、労働組合のある企業では労働組合と交渉して決めることになる。労働組合のない企業では、企業側が世間動向に配慮しつつ決定するのが実情である。
[笹島芳雄]
『産労総合研究所編『賃金・労働条件総覧』(2009・経営書院)』▽『厚生労働省編『厚生労働白書』各年版(ぎょうせい)』
一般的には,賃金,労働時間,休憩,休日,年休など労働契約の内容となりうる条件をいう。しかし,憲法27条2項が労働者の勤労条件の法定化を要求し,これを受けて労働基準法が具体的にその最低基準を定めている趣旨からすれば,単に労働契約の内容となりうる条件にとどまることなく,安全衛生,災害補償,寄宿舎,さらには解雇,退職の条件等,より広く労働者の職場での待遇に関する基準,すなわち労働基準法が最低労働条件基準として定めている条件のすべてが労働条件に含まれると解してよい。そして,このような意味での労働条件は,そもそも労働基準法による労働条件保護の目的が憲法25条の生存権保障の具体化にあるということからすれば,基本的には〈労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきもの〉でなければならない(労働基準法1条1項)。また,労働契約の締結に際して,使用者が労働条件を示さず,あるいは事実に反する労働条件を示すなどによって労働者が不測の不利益を受けるとか,また本来労働者の置かれた弱い立場からそのような悪条件の下でもやむなく働かねばならないことから生じる不利益を避けるため,労働基準法は,労働契約の締結に際して使用者に労働条件の明示を義務づけている(その具体的範囲については労働基準法施行規則5条がこれを列挙する)。と同時に,明示された労働条件が事実に反する場合には労働者が当該労働契約を即時解約しうる旨を定めている(15条1項・2項)。また,労働基準法で定める労働条件基準はあくまでも労働者が人間らしい生活を営むための最低基準を定めたものであるから,この基準に満たない労働条件基準は当然に無効となる(13条)。労使双方としてはよりよい労働条件を目ざしてその向上を図るよう努めなければならず(1条2項),そのため,労働基準法は,なによりも労使が対等の立場において労働条件を決定すべきことを要求している(2条1項)。このことは,契約法上の見地ならびに労働者保護を目的とする労働法上の見地からして当然のことといえる。
しかし,現実には経済的弱者である個々の労働者が,使用者との間で労働条件を対等に交渉することはほとんど不可能である。そこで労働者としては労働組合の結成によって実質的に使用者と対等の立場に立ったうえ,かかる団結の力を背景とした団体交渉,労働協約の締結をとおして労働条件を決定することこそが基本原則としてなによりも要求されることとなる。そして,このようにして決定された労働協約による労働条件基準については,それが就業規則によるものよりも有利な内容の場合には,就業規則に優先して労働契約を規律していくことを肯定している(労働基準法92条,労働組合法16条)。さらに,その他使用者は労働者の国籍,信条,社会的身分や性別などを理由に労働条件につき差別することも許されない(労働基準法3条,4条)。
→労働基準法 →労働協約
執筆者:奥山 明良
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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…このうち〈その他の団体行動をする権利〉が争議行為をする権利,すなわち争議権をさすと解されている。
[争議権の意義]
労働者は,賃金労働時間その他の労働条件を維持・改善し,その経済的地位の向上を図るために労働組合を結成またはこれに加入する権利(団結権)を保障され,使用者またはその団体と対等な立場で交渉しその結果を労働協約として締結する権利(団体交渉権)をもつ。しかし,団体交渉が不調に終わり合意に達しない場合,あるいは労働協約が遵守実行されない場合には,交渉の進展を求めて新たに合意するまで,すなわち新たな労働協約が締結されるまで,あるいは労働協約が完全に実行されるまで,労働組合または争議団は労働の提供を拒否することができる。…
※「労働条件」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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