社会経済史学(読み)しゃかいけいざいしがく

日本大百科全書(ニッポニカ) 「社会経済史学」の意味・わかりやすい解説

社会経済史学
しゃかいけいざいしがく

経済史学研究のなかで、資本主義経済が生み出す社会問題の「解決」が研究者によって強く意識されだす時期(20世紀初頭)から使用されるようになった学問名称。社会問題に対する認識の差異を反映した種々の研究成果を生み出し、経済史学の発展に貢献してきた。社会問題の解決には社会体制の変革を必要とするというマルクス主義史学は社会経済史学の主要な学派の一つであり、他の学派もマルクス主義を大なり小なり、肯定的にあるいは否定的に受け止めるなかでその研究潮流を形成してきた。たとえば、産業革命をめぐるトインビー‐ハモンド学派とクラッパム学派の論争前者はその社会経済に与えた質的変化を、後者は社会経済発展の連続性を重視する)はその代表例である。この連続性の重視はA・ドープシュやM・ウェーバーらによって古代史、中世史研究にも持ち込まれ、第二次世界大戦後の経済成長を背景としたW・W・ロストウを代表とする「成長経済史学」にも引き継がれている。

 日本では、小作争議や労働運動など社会問題が深刻化する大正末から昭和初頭に、マルクス主義研究をはじめとする社会経済史研究が本格化し、1930年(昭和5)には「社会経済史学会」や「歴史学研究会」が創立され、機関誌『社会経済史学』や『歴史学研究』が刊行された。当時のもっとも華々しい論争は明治維新の性格規定をめぐる「日本資本主義論争」であり、外国史研究もこの論争を意識して行われた。

 第二次世界大戦後には、冷戦構造への批判意識と世界経済の不均等発展を意識した「比較工業化史」、南北問題を意識した「従属論」、階級だけではなく全民衆を含む「社会史」「生活史」などが多くの研究者の関心を集めた。冷戦構造が崩壊した1990年代以降は、分析方法と研究対象の多様化・細分化が進むなかで、従来の古典的マルクス派の系統を継ぐ研究に加えて、いわゆる近代経済学の方法に基づく経済史研究や、人口学から派生した「歴史人口学」などの分野も、広がりをみせている。

[殿村晋一・永江雅和]

『井上幸治・入交好脩編『経済史入門』(1966・広文堂)』『社会経済史学会編『社会経済史学の課題と展望』(1984・有斐閣)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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