改訂新版 世界大百科事典 「従属論」の意味・わかりやすい解説
従属論 (じゅうぞくろん)
teoría dependentista[スペイン]
1960年代後半ラテン・アメリカの社会科学において登場した,既存の開発理論・開発政策に対する批判運動としての一思潮。その登場の背景としては,(1)第2次大戦後ラテン・アメリカの開発理論の主流をなしていた近代化論の破綻,(2)戦後の開発政策が主張した輸入代替工業化政策がもたらしたアメリカ系企業(多国籍企業)による国内産業の支配,(3)キューバ革命とその社会主義宣言,などからなる当時の社会情勢を指摘することができる。フランクAndré Gunder Frankは,従属論の代表的論客とみなされており,日本においてもその主著《世界資本主義と低開発》(1975。1967,69年刊の二つの著書から編集)が紹介され注目を浴びた。その主張の骨子は以下からなる。(1)世界システムとしての資本主義は生来的に独占性を有しており,周辺従属衛星地域の〈経済余剰の収奪・領有〉によってシステムの中枢部に発展をもたらし,同時に周辺部に低開発をもたらした。(2)このような〈中枢-衛星分極化〉は,あたかも星座の連鎖体系のように国際面ならびに国内面に浸透しており,その結果ラテン・アメリカの辺境の農村までもが世界システムに包摂され収奪される。(3)このような〈低開発の発展development of underdevelopment〉関係=構造は,商業資本主義,産業資本主義,帝国主義という資本主義の発展段階上の〈変化〉にもかかわらず一貫して〈連続〉している。
以上のような〈フランク理論〉に対し,世界中で賛否両論がまきおこった。日本においては,すべての国が同様のプロセスをたどって発展すると考える〈単線的発展論〉に対する批判としての〈両極的発展論〉,あるいは資本主義は本来的に独占的性格をもつとする〈通時的帝国主義論〉として評価された。しかし一方では,民族や国家などのナショナルな枠組みの欠落,世界市場との包摂関係という流通面のみをみる生産関係欠落論,低開発の外因決定論であるという指摘などからなる批判をも浴びている。ともあれ,16世紀以来の世界史を被支配周辺部からみようとする周辺史観,低開発を一国ごとではなく世界システムのなかに位置づけようとする世界資本主義論,といった従属派に共通の視座の強調という点において,フランクによる貢献は大きい。
日本において紹介ずみ,あるいは紹介されつつある他の論者・著書には以下のものがある。フランクとならぶ経済学者,ブラジルのドス・サントスTheotonio Dos Santos《帝国主義と従属》(1978)。社会学者としては,ブラジルの亜帝国主義的性格をめぐる論争で知られているカルドーゾFernando Henrique Cardoso《ラテン・アメリカにおける従属と発展》(1969)とマウロ・マリーニRuy Mauro Marini《従属の弁証法》(1973),メキシコのカサノバPablo González Casanova《現代メキシコの政治》(1965)およびスタベンハーゲンRodolfo Stavenhagen《開発と農民社会》(1981)などをあげることができる。
執筆者:原田 金一郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報