知恵蔵 「神経歴史学」の解説
神経歴史学
人類の歴史を、ヒトという種が持つ集合的な特性に着目して読み解こうとする点が、これまでの歴史学にない視点である。
「神経歴史学」(neurohistory)という名称の「神経」(neuro)とは、ただ単にヒトの中枢神経及び末梢神経のことを表すだけでなく、現在分かっている生理的な特性や、知覚と行為の相関など、神経の働きや脳の受容をも含む。文明の形成、技術の革新などに際し、ヒトの神経の働きはどのように影響したか。逆に、それらがヒトの神経の働きにどのような影響を与えたか。更に、ニューロンやシナプスの形成、神経ネットワークの再構築による脳の可塑性(環境や刺激に順応するためにヒトの脳が生涯にわたって変化し続けること。神経可塑性と同義に使われることもある。1973年にノルウェーの神経解剖学者アルフ・ブローダルが自らの体験をもとに論文発表するまでは、ヒトの中枢神経は幼年期に完成したら損傷しても再生・回復はしないというのが長く医学界の定説であった)が、史上どのような事象によって現れ、どのようにヒトを変えてきたのか、といったことが主な研究テーマとなる。
(石川れい子 ライター / 2014年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報