神鳴(読み)カミナリ

デジタル大辞泉 「神鳴」の意味・読み・例文・類語

かみなり【神鳴】

狂言和泉いずみでは「雷」。広野に落ちて腰を打った雷が、通りかかった医者に針療治してもらい、治療代のかわりとして、五穀のためによい天候を保つことを約束して、天上に帰る。

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改訂新版 世界大百科事典 「神鳴」の意味・わかりやすい解説

神鳴 (かみなり)

狂言の曲名。鬼狂言。都の藪医者東国へ下る途中,広い野に来かかるとにわかに空が曇り,〈ピカリ,ガラガラ〉と言いながら雷が飛び出して,医者の前に倒れる。雷は雲間から落ちて腰を打ったと言い,ひれ伏している医者に治療を命ずる。医者は大きな鍼(はり)を槌(つち)で鬼の腰へ打ち込むと,雷は痛がって騒ぐが,治療を終えると快癒して,さっそく昇天しようとする。医者が治療費を請求すると,雷は持合せがないと言う。かわりに五穀成就の雨を適当に降らせることを約束し,医者の将来を祝福する謡をうたって,昇天する。登場人物は雷と医者の2人で,雷がシテ。各流にあり,和泉流の曲名表記は《雷》。雷を擬人化したおかしみをねらい,鍼を打ち雷が悲鳴をあげる場面での誇張と倒錯が中心趣向になっている。雷の扮装は,武悪の面または武悪に似た雷の専用面をかけ,鬼の役と同じ類型である。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「神鳴」の意味・わかりやすい解説

神鳴
かみなり

狂言の曲名。鬼狂言。和泉(いずみ)流では「雷」と書く。都落ちし吾妻(あづま)へ下る藪(やぶ)医者の目の前に、神鳴(シテ。武悪(ぶあく)の面を使用)が落ちてくる。雲間を踏み外し、したたかに腰を打った神鳴は、医者と聞いて治療を頼む。藪医者が大きな針を取り出し、木槌(きづち)で「ハッシハッシ」と神鳴の腰に打ち込むと、神鳴は七転八倒して痛がるが、持病痛風まで治ってしまう。神鳴は治療代がわりに、800年間干魃(かんばつ)も水害もないよう、ほどよく雨を降らせることを約束し、藪医者を典薬頭(てんやくのかみ)にしてやろうと言い残して、ふたたび「ヒッカリヒッカリ、グヮラリグヮラリ」と雷鳴をとどろかして退場。狂言は宗教者のほとんどを笑いの対象としているが、藪医者と自称しているにもかかわらず、医者にはその効用を肯定する。あくまで現実生活に寄り添う狂言の特徴が表れている。

[油谷光雄]

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