日本大百科全書(ニッポニカ)「神鳴」の解説
神鳴
かみなり
狂言の曲名。鬼狂言。和泉(いずみ)流では「雷」と書く。都落ちし吾妻(あづま)へ下る藪(やぶ)医者の目の前に、神鳴(シテ。武悪(ぶあく)の面を使用)が落ちてくる。雲間を踏み外し、したたかに腰を打った神鳴は、医者と聞いて治療を頼む。藪医者が大きな針を取り出し、木槌(きづち)で「ハッシハッシ」と神鳴の腰に打ち込むと、神鳴は七転八倒して痛がるが、持病の痛風まで治ってしまう。神鳴は治療代がわりに、800年間干魃(かんばつ)も水害もないよう、ほどよく雨を降らせることを約束し、藪医者を典薬頭(てんやくのかみ)にしてやろうと言い残して、ふたたび「ヒッカリヒッカリ、グヮラリグヮラリ」と雷鳴をとどろかして退場。狂言は宗教者のほとんどを笑いの対象としているが、藪医者と自称しているにもかかわらず、医者にはその効用を肯定する。あくまで現実生活に寄り添う狂言の特徴が表れている。
[油谷光雄]