水害(読み)スイガイ

デジタル大辞泉 「水害」の意味・読み・例文・類語

すい‐がい【水害】

洪水・高波などによって受ける被害。 夏》
[類語]水難海難洪水氾濫大水出水鉄砲水増水冠水浸水水没

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精選版 日本国語大辞典 「水害」の意味・読み・例文・類語

すい‐がい【水害】

  1. 〘 名詞 〙 田畑や人家などが洪水、浸水、冠水、土石流などによってこうむる害。出水の被害。水患。水災。《 季語・夏 》
    1. [初出の実例]「遠江国五郡被水害、並限三年、令」(出典:続日本紀‐神亀三年(726)一二月丁卯)
    2. 「河水が溢れて大に平地に上るぞ。亦言は水害に遭なり」(出典:史記抄(1477)五)
    3. [その他の文献]〔管子‐度地〕

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改訂新版 世界大百科事典 「水害」の意味・わかりやすい解説

水害 (すいがい)

洪水高潮など水が多すぎるために起こる災害の総称で水災害ともいう。広義には水が少なすぎるために起きる干ばつなどを含めたり,水汚染のような公害を含めることもある。

 日本は梅雨前線が停滞しやすくまた台風の常襲地帯であるので,暖候期の大雨によって水害が起こりやすいが,日本海沿いの豪雪地帯では春の雪どけによっても洪水が起こることがある。このような気象条件だけでなく,河川は地形の関係から急流が多いことや,山地から平野に出るところの扇状地帯で急にこう配が変わること,さらには火山灰や花コウ岩の風化地帯および断層破砕帯が各地に散在して,大雨時に山腹崩壊,土石流,地すべりなどが起こりやすいなど水害の様相も多様である。また大雨だけでなく海からの水害も多く,海岸線が複雑でその形状によっては津波や高潮の被害を受けやすい海岸の危険地域も多数存在している。このような日本の宿命的な自然環境に加えて,近年特に著しい国土の開発と保全の不調和もまた重要な水害増大の原因である。

 水害の様相はこのように時代とともに変遷してきている。昔の日本は人口が少なくて人々は安全な土地を選んで住むことができたが,一方,自然に対する防御の方法はほとんどもたなかった。近年は防災科学や工法の発達によって災害を防ぐ手段は改良されてきたが,人口増大に伴う国土の開発に伴い,安全な土地を選んで住むことがむずかしくなり,また人命だけでなく施設の被害が増えてきた。第2次世界大戦中に荒廃した日本の山野は戦後しばらくの間,特に自然の災害に対する抵抗力が減じ,毎年多くの人命を水害によって失った。しかし国力の回復とともに改修事業が進み,また気象予・警報の技術の進歩や通信の発達によって洪水による死者の数は近年著しく減ってきた。一方,無理な宅地開発などによって土石流などの水災害と地盤災害の複合による死者の数が目だってきている。

 水害で大きな被害を出した一例として,1976年の台風17号の例についてみると,この台風が九州から北海道まで日本列島に沿って進む間に,中部以西の16府県を中心として全国各地に水害を生じ,死者・行方不明175人,家屋の全半壊・流出5555棟をはじめ,施設関係の被害など一次災害の被害額だけでも7227億円に達した。この台風による水害の種類も多様であり,まず台風の転向点にあたった鹿児島県南部の吐噶喇(とから)列島付近では,2日間にわたって台風の中心が停滞していたために暴風雨がつづき,小河川のはんらん崖崩れなどが続発し,高波によって島々と九州本島の間の交通が断絶した。また徳島県の日早(ひそう)では,総降水量2781mm,日降水量1114mmとともに日本記録を更新し,県内山間部では河川のはんらん,山地崩壊が無数に発生した。また高知市内でも日降水量523mmという観測史上第1位の大雨によって,水害常襲地帯の仁淀川下流域では長時間にわたる浸水がつづいた。これは仁淀川本川の水位が高まるため,この低平地に降った水が本川に流入不可能になるために生ずるいわゆる内水災害と呼ばれるもので,都市化の進行とともに近年その被害が増大しつつあるものであり,ポンプの助けによって本川へ排水したりしなければ防げない水害である。また兵庫県下などで農業用小型溜池の被災が目だったが,日本の農業用溜池は28万ヵ所もあり,その75%は建設後100年以上経過しており,農業形態の変化とともに保守が遅れていて重要な問題となっている。瀬戸内海沿岸の花コウ岩地帯は風化によって土石流が発生しやすくなっており,この台風によって小豆島などで土石流が多発し多くの人命が失われた。またこの台風では長時間にわたる大雨のため,長良川が岐阜県安八町付近で破堤して約17km2にわたって最大水深3mの浸水が長時間つづいた。このように水害には種々のものがあり,単独に起こることもあれば,この台風の場合のように同時多発することもある。
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第2次大戦後の高度成長期以後,急速な都市化に伴って造成された新興住宅地など,都市部において河川のはんらんによる水害が目だってきている。このような水害を一般に都市水害と呼んでいるが,それが顕著に現れたのは,1958年9月26日の狩野川台風における東京,横浜の水害であろう。この日,東京,横浜の日雨量はそれぞれ392mm,287mmと,ともに明治の雨量観測開始以来の新記録であり,東京の山手ではこの台風ではじめて本格的な水害が発生した。それ以前は下町が主として水害の舞台であったが,この台風以来,山手台地を刻む小規模な谷底に沿う平野部を中心に浸水被害が広がってきた。50年代から60年代にかけ,東京は著しい人口増加に伴い,山手の農地や川沿いの低地などが次々と宅地化され,その地域に豪雨の際にはんらん被害が生ずるようになったと考えられる。この種の都市水害は,人口増加の激しい大都市から始まり,60年代後半から70年代にかけては,大都市周辺部,地方中核都市などに広がるにいたった。

 この傾向は,日本の後を追って都市化が激しく進んでいる韓国,台湾をはじめ,人口増に伴う宅地開発が急速に進んだ東南アジアの大都市にも,日本より10ないし20年の後を追う形で発生している。しばしば豪雨に見舞われるモンスーン地帯での急激な都市化において,適切な水害対策を伴わない場合に特に発生しやすい水害といえよう。

 日本の建設省では都市水害の頻発にかんがみ,76年9月,全国的に大きな水害をもたらした台風17号の直後,河川審議会に総合治水対策小委員会を設け,翌77年6月中間報告の形で,いわゆる総合治水対策を発表した。その骨子として,都市水害を防ぐために,流域開発の激しい河川流域のもつ保水および遊水機能の維持に努めること,洪水はんらん危険区域の公表,その区域に対する安全な土地利用方式の策定,洪水時における警戒避難体制の拡充,被害者救済制度の確立などの実施が提唱された。つまり,都市水害に対しては,河川改修工事などのハードな手段のみでは到底対抗できず,土地利用すなわち開発の方法をはじめとする各種のソフトな手段を併用してはじめて,その軽減が可能であることが認識されたと考えられる。これ以後,都市化の激しい中小河川流域などで,従来は開発側からは歓迎されなかったはんらん危険区域の公表,過去の浸水位の表示なども徐々に実施されるようになり,川沿いの低湿地とか危険な崖下などに宅地化が進まないように,市街化区域に編入させないなどの施策をとる都市も現れてきている。元来,開発と防災は諸刃の剣であり,防災面から見ての無秩序な都市化に伴う都市水害の頻発はその典型例とみなすことができる。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「水害」の意味・わかりやすい解説

水害
すいがい

豪雨、台風、雷雨などによる多量の降雨を原因として生ずる災害。土砂災害浸水害、洪水災害に大別でき、土砂災害は山岳部の全域で、浸水害や洪水災害は平野部の河川流域で多く、ともに莫大(ばくだい)な損害を与える。

(1)土砂災害
破壊力をもつ土砂が多くの人命や財産を奪う現象で、土石流や山崩れ・崖(がけ)崩れなどがある。豪雨などによって山腹や川底の石や土砂が一気に押し流される現象を土石流、山の斜面や自然の急傾斜地の崖、人工的な増設による斜面が突然崩れることを、山崩れ、あるいは崖崩れという。

 気象庁は、このような気象災害を防止・軽減するために大雨特別警報(土砂災害)、大雨警報(土砂災害)、大雨注意報や気象情報などの防災気象情報を発表し、注意や警戒を呼びかけるほか、都道府県と共同で土砂災害警戒情報を発表している。大雨警報(土砂災害)や土砂災害警戒情報等の発表基準となっているのは、降った雨が土壌中に水分量としてどれだけたまっているかを示した土壌雨量指数である。大雨に伴って発生する土砂災害(崖崩れ・土石流)には、現在降っている雨だけでなく、これまでに降った雨による土壌中の水分量が深く関係しているからである(先行降雨の反映)。

(2)浸水害
大雨等による地表水の増加に排水が追いつかず、用水路や下水溝があふれて氾濫(はんらん)したり、河川の増水や高潮(たかしお)・津波によって排水が阻まれたりして、住宅や田畑が水につかる災害を浸水害という。堤防からあふれる外水氾濫に対し、内水氾濫とよぶこともある。道路や田畑が水につかることを冠水ということもある。

 気象庁は、このような気象災害を防止・軽減するために大雨特別警報(浸水害)、大雨警報(浸水害)、大雨注意報や気象情報などの防災気象情報を発表し、注意や警戒を呼びかけている。大雨警報(浸水害)・大雨注意報等の判断基準となっているのは、表面雨量指数で、短時間強雨による浸水危険度の高まりを把握する(浸水発生地域を絞り込む)指標である。降った雨が地中にしみ込みやすい山地や水はけのよい傾斜地では、雨水がたまりにくいという特徴がある一方、地表面の多くがアスファルトで覆われている都市部では、雨水が地中にしみ込みにくく地表面にたまりやすいという特徴があり、表面雨量指数は、こうした地面の被覆状況や地質、地形勾配(こうばい)などを考慮してつくられている。

(3)洪水災害
大雨や融雪などによって河川の水量が著しく多くなることによって堤防の浸食や決壊、橋の流出等がおこる災害のことを洪水災害という。一般的には堤防の決壊や河川の水が堤防を越えたりすることによって起こる氾濫(外水氾濫)を洪水という。

 気象庁は、このような気象災害を防止・軽減するために洪水警報、洪水注意報や気象情報などの防災気象情報を発表し、注意や警戒を呼びかけている。また、国土交通省や都道府県と共同で指定河川洪水予報を発表している。指定河川洪水予報の標題には、氾濫注意情報、氾濫警戒情報、氾濫危険情報、氾濫発生情報の四つがあり、河川名を付して「○○川氾濫注意情報」「△△川氾濫警戒情報」のように発表している。これらの発表基準となっているのは流域雨量指数で、河川の上流域に降った雨により、どれだけ下流の対象地点の洪水危険度が高まるかを把握するための指標(河川水位との相関が高い指標)である。また、河川によっては、表面雨量指数と流域雨量指数の組合せによる基準値を用いる場合がある。

[饒村 曜 2024年2月16日]

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普及版 字通 「水害」の読み・字形・画数・意味

【水害】すいがい

大水の害。〔史記、律書〕昔、鹿(たくろく)の戰りて、以て火災を定め、(せんぎよく)に共工の陳(陣)りて、以て水らぐ。

字通「水」の項目を見る

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百科事典マイペディア 「水害」の意味・わかりやすい解説

水害【すいがい】

豪雨,融雪などにより地表水が過剰になって流量が増大することによる直接・間接的被害。日本は地形が急峻(きゅうしゅん)であるため,大雨が降る6〜7月の梅雨期,台風の襲来する8〜9月,融雪期の3〜4月ころ河川の水がはんらんして,田畑の冠水,洪水による流失,山崩れによる埋没が起こる。2〜3日ぐらいの冠水では農作物の被害は少ないが,10日以上も冠水すると収穫は皆無となる。そのためには洪水予報の利用,河川の土木事業,植林,洪水調節,および農作物の栽培学的対策などが必要である。→治水

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