日本大百科全書(ニッポニカ) 「税関検閲」の意味・わかりやすい解説
税関検閲
ぜいかんけんえつ
一般に貨物の輸出入にあたっては、関税法(昭和29年法律61号)第67条に基づき、税関の検査を受けてその許可を受けなければならないが、税関検閲という場合は、とくに映画や出版物の輸入に際して、税関がその内容を検査し、関税定率法(明治43年法律54号)第21条1項3号によって輸入禁制品とされている「公安又は風俗を害すべき書籍、図画、彫刻物その他の物品」にあたると判断した場合に、その輸入を事実上禁止し、あるいは一部規制する制度をさす。この制度は、第二次世界大戦前においては、天皇制に批判的なもしくは共産主義的な出版物の海外からの流入を阻止するなど、思想、出版の統制手段として威力を発揮した。戦後は、性表現物がおもな規制対象となっているが、アウシュウィッツ強制収容所におけるナチスの行為を描いた映画『夜と霧』やベトナム戦争の記録映画の輸入に際して、残虐性が問題とされたこともある。税関検閲が行われるべき理由としては、効果的な取締りのための「水際阻止」の必要性が主張されるが、憲法学者の間では、この制度は日本国民の「表現を受け取る自由」を侵害し、検閲を禁止した日本国憲法第21条2項に違反するとの考え方が有力である。なお、関税定率法第21条1項は、ほかに、(1)あへんその他の麻薬およびあへん吸煙具、(2)偽造貨幣・紙幣など、(3)特許権、実用新案権などを侵害する物品を輸入禁制品として指定している。
[浜田純一]