改訂新版 世界大百科事典 「穂肥」の意味・わかりやすい解説
穂肥 (ほごえ)
イネやムギ類の穂の発育に必要な栄養を補給する目的で,イネでは出穂の25日前ころ,ムギ類ではその40日前ころに施与される速効性の,主として窒素肥料を穂肥という。そのころは,幼穂と呼ばれる小さな穂が,茎の基に形成されている時期である。穂肥は穂の数や1本の穂に着生するもみの数を増加し,また葉の光合成能を高めて,もみの稔実を良好にするなどの効果がある。イネによる穂肥の吸収利用率は元肥より高く,施用された窒素の70~80%が吸収利用されることが多い。この時期にはイネの根が水田全体に密に生育伸長し,かつ根の養分吸収力も活発なためである。穂肥は主として窒素肥料が用いられるが,カリ肥料の併用も効果があり,関東以西の暖地では窒素とカリを同量施用することが多い。とくに秋落ち水田や砂質の水田にはカリ肥料を施用することが必要である。
穂肥の技術は昭和初期,山形県庄内の農民,田中庄助によって始められたといわれている。その効果の科学的裏づけは1943年に木村次郎らによってなされた。すなわち,木村らは水耕法を用いてイネを育て,窒素を与える時期と生育量との関係を調べたところ,もみの生産にとくに効果の高いのは,イネの茎数の増加する若い時期と穂の発育する穂肥の時期の2回あることを見いだした。水田への窒素施用量全体を100とすると,その20~50が穂肥で施用される。一般に寒冷地より暖地で,また日照のよい年に穂肥は多く用いられる。穂肥は施用時期を誤ったり,気象条件が不利だとイネを徒長させ,病害や倒伏の被害を受けやすくしたり,稔実を不良にする。
執筆者:茅野 充男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報