立法国家 (りっぽうこっか)
近代市民革命後の国家は,すべての国家権力の行使が法に基づくこと,そしてその法が国民の代表である議会によって定められることをたてまえとしている。そのことは,議会の立法が国家権力行使の法的起点となることを意味し,議会の最高機関性が論理的に導かれる。こうした構造の国家を立法国家とよび,歴史的段階からみて,一般的には19世紀国家が立法国家であったといわれる。けだし,現代国家は,行政の優位する国家(行政国家),あるいは,裁判所にすべての国家機関による行為の適性法を判断させる国家(司法国家)の様相を帯びているからである。
立法国家の牙城イギリスにおいても,近年,ヨーロッパ共同体(EC)にとどまるか否かについて,議会は,国民投票を媒介として決着をつけざるをえなかった(1975)こと,さらに,議会万能に歯止めをする立法なり裁判所の権限を構想する考えがみられることから,それは揺らぎつつあるといってよい。
日本国憲法は,国会を国権の最高機関とし,さらに唯一の立法機関としており(41条),憲法に違反しないかぎり,その立法が,すべての国家機関を拘束することになっている。しかし,この立法の合憲性が裁判所の判断にゆだねられている(81条)ので,日本は立法国家型ではなく,司法国家型に傾くとみることができる。明治憲法は天皇主権を基調とする行政国家であったから,日本には立法国家の段階はなかったことになる。
執筆者:清水 睦
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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世界大百科事典(旧版)内の立法国家の言及
【行政】より
…そして,議会および内閣の政治を運用するための装置として政党が発達し,[政党政治]が行政を支配するようになった。このような近代民主制下の政治体制のことを[立法国家]という。権力分立制度上,立法機関と位置づけられている議会が統治の実権を掌握していたからである。…
【行政国家】より
…まったく異なる二様の国家類型を意味する。第1の概念は元来英米系の用語で,今日では主として行政学ないし政治学一般の世界で使用されており,[立法国家]の対概念となっている。第2の概念はフランス,ドイツなど大陸系の用語で,主として行政法学ないし法学一般の世界で使用されており,[司法国家]の対概念となっている。…
【権力分立】より
… もともと権力分立は,君主権力の恣意的な支配に対抗して,立法権,少なくともその主要な部分を議会がにぎり,また,独立した裁判所によって司法権が行使されるべきことを主張するものとして登場してきた。それゆえ,近代憲法のもとでの権力分立は,議会による立法権の掌握と,議会制定法による行政・司法両権の拘束を核心とする,多かれ少なかれ議会優位型の形態をとっていた(立法国家)が,その後,現代においては,さまざまの変容をこうむるようになっている。行政権についていえば,一方で,君主ではなく,国民意思による権威づけを与えられた行政府首長が重要な役割を演ずることによって,議会による民意の独占が破られ,他方で,そもそも民意のとどき難い官僚制部門が強大化し(行政国家),裁判所に関しては違憲審査制の役割が大きくなり,少なくとも裁判過程の法創造性が強まる(裁判国家)。…
【国家】より
…しかし国民主権が確立されることによって,国民的自覚(そのイデオロギー的表現が国民主義にほかならない)を備えた国民国家が成立することになったのである。
[夜警国家]
近代国民国家は,まず市民社会を基盤として成立するが,この時期の近代国家の特徴は,[夜警国家]であり,[立法国家]であることに求められよう。夜警国家は,[自由放任主義]の下で国家の機能を最小限にとどめようとするものであった。…
※「立法国家」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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