立法国家,行政国家という言葉と並んで使われる用語で,立法府,行政府にも属さない裁判所(司法府)に,他の国家機関に対して優位性が認められる国家を指す。
従来は,行政府と国民との法的争いを,行政府に属する裁判所(行政裁判所)に処理させる制度をとっている国家(ドイツ,フランス等大陸国家)に対し,上記の争いを,行政府から独立した普通の裁判所(司法裁判所)に裁判させる国家(イギリス,アメリカ)を司法国家と呼んだ。戦前の日本は,行政裁判所の制度があった(明治憲法61条参照)が,日本国憲法は,裁判所としては,司法裁判所以外の系列を認めない趣旨と解せられる(76条1項参照)こと,〈行政機関は,終審として裁判を行ふことができない〉(同条2項後段)と定めていることなどからして,今では上記の意味での司法国家であるといってよい。
司法国家の第2の意味は,司法裁判所(アメリカ等の場合)であれ,特別に構成された憲法裁判所(ドイツ,イタリア等の場合)であれ,裁判所に違憲法令審査権を認めている国家を指す場合であり,これは,行政府のみならず,立法府(議会)に対する優位をも意味する。日本もこの制度を採用している(81条)ため,この意味でも司法国家といえるが,アメリカ型の審査制度と解されていることから,国会の立法を裁判で改廃する力はない。司法国家といっても,裁判所の圧倒的優位を認めるものではない。
→違憲立法審査制度
執筆者:清水 睦
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権力分立主義のもとで、司法に優越的な地位を認める国家、もしくは行政裁判制度を認めない国家をいう。前者の場合は、裁判所が違憲立法審査権をもち、議会の定立した法律を審査する権限をもつという意味で、「司法権の優越」が説かれる。アメリカ合衆国がその典型で、日本も裁判所に違憲立法審査権(法令審査権)が与えられている(憲法81条)から、司法国家とみることができる。後者の場合、行政裁判所をもたず、行政事件を含めていっさいの事件を司法裁判所が管轄する場合にいわれる。その典型は英米法系の諸国にみられるが、日本も司法裁判所がいっさいの法律上の争訟を裁判する(憲法76条、裁判所法3条)点から考えて、司法国家の型に属する。ただし明治憲法下においては、行政権のもとで、行政事件のみを審査する行政裁判所を置くという行政国家型がとられていたが、制度・運営の面で人権保障に大いに欠ける点が多かったので、現行の司法国家型に変えられたのである。しかし、現行制度でも行政事件の訴訟については、特別の手続が認められているから、英米の司法国家とはまた異なった特色をもっている。
[池田政章]
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
…第1の概念は元来英米系の用語で,今日では主として行政学ないし政治学一般の世界で使用されており,立法国家の対概念となっている。第2の概念はフランス,ドイツなど大陸系の用語で,主として行政法学ないし法学一般の世界で使用されており,司法国家の対概念となっている。(1)絶対君主との抗争に勝利し,議会主権を確立した国々では,議会が文字どおり国権の最高機関であり,内閣は議会の委員会にすぎず,官僚制も政党政治の支配下におかれていた。…
…イギリス,アメリカにおける〈法の支配rule of law〉や〈法の優位supremacy of law〉の原則の下では,行政府や公務員の行為も,一般私人と同様にコモン・ローcommon lawによって規律され,紛争が生ずれば通常裁判所の裁判権に服することとされてきたのである。このような行政制度をもたない国を,通常,司法国家Justizstaat(ドイツ語),pays sans régime administratif(フランス語)という。ただ,それにもかかわらず,19世紀から20世紀にかけての現代国家に共通して生じた行政権の不可避的な拡大とその機能の強化という傾向についてはイギリスやアメリカも例外ではなく,かつてイギリスに行政法は存在しないと述べたダイシー自身も,その後その存在を認めるに至った。…
※「司法国家」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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