内科学 第10版 「糖原病III型」の解説
糖原病III型 (Cori/Forbes病)(糖原病(グリコーゲン病))
病因
AGL遺伝子によってコードされるグリコーゲン脱分枝酵素(glycogen debranching enzyme)の欠損による.グリコーゲンの分枝部で分解が止まるため,ホスホリラーゼのみで分解されたグリコーゲンである限界デキストリン(phosphorylase limit dextrin)が蓄積する.
病態生理
グリコーゲンの外側枝は分枝部から4つのグルコース残基を残すまでホスホリラーゼによって切断され,残ったグルコース残基はグリコーゲン脱分枝酵素によって分解される(図13-2-37).グリコーゲン脱分枝酵素には2つの機能があり,1つは3つのα-1,4グルコース残基をほかの外側枝へ移す機能であり(oligo-1,4-glucan transferase),もう1つは最後の残ったα-1,6グルコース残基を切断する機能(amylo-1,6-glucosidase)である.このため,本症では肝や筋に分枝が多く外側枝に短い限界デキストリン様の異常グリコーゲンが蓄積する.ホスホリラーゼは正常に存在するため,グリコーゲン外側枝の分解によってある程度のグルコースは産生されるため,本症における低血糖症状は軽い.
臨床症状
欠損酵素の臓器における発現の相違により,4つの亜型に分類される.肝および筋の症状を呈するⅢa型が最も多く,Ⅲb型は肝のみの症状を呈する.Ⅲc型およびⅢd型はきわめてまれ.臨床症状は糖原病I型に類似し,肝腫大(腎腫大はない),成長障害,低血糖を認めるが,一般にⅠ型よりも軽症.特に痙攣などの重篤な低血糖発作は伴わないことが多い.運動後の高尿酸血症を認めることがある.思春期以降,肝腫大や肝障害は改善していく.一方,筋力低下や筋萎縮などの筋症状は年長になるにつれて顕著となる.
検査成績
空腹時低血糖(ケトーシスを伴う),肝トランスアミナーゼおよびコレステロール高値.筋症状を伴う例ではCKの上昇を認める.心臓にグリコーゲンが蓄積する結果,心肥大と心電図・心エコー上での異常所見を呈するが,心不全に至ることはまれ.成長障害,骨粗鬆症,骨量減少,多囊胞性卵巣なども報告されている.
診断
確定診断のためには,異常グリコーゲンの蓄積を示すか,あるいは,酵素診断が行われる.遺伝子診断が行われる場合もある.
補助診断としてのグルコース負荷試験では血中乳酸値が上昇する.グルカゴン負荷試験は特徴的で,空腹時の血糖上昇はなく,飽食後(食後2時間)で上昇する.これは,空腹時には,ホスホリラーゼにより大部分の外側枝がすでに分解されているため,さらなるグリコーゲン分解が起こらないためと考えられる.
鑑別診断
乳幼児期は,Ⅰ型と鑑別が困難であることが多い.Ⅲ型ではグルコース負荷試験にて血中乳酸値が上昇するが,Ⅰ型では低下する.
経過・予後
一般に予後は良好であるが,まれに肝硬変や心筋障害をみる.
治療
低血糖があればⅠ型と同様に頻回の食事,コーンスターチ療法,夜間経鼻管持続注入療法を行う.フルクトース,ガラクトースの制限は不要.高蛋白食は,特に筋症状の強い症例で有効との報告がある.糖質のみの過剰摂取,ステロイド製剤,成長ホルモンを避ける必要がある.[松原洋一]
■文献
Kishnani PS, Koeberl D, et al: Glycogen storage diseases. In: The Online Metabolic and molecular Bases of Inherited Disease, (Valle D, Beaudet AL, et al eds). http://www.ommbid.com/OMMBID/the_online_metabolic_and_molecular_bases_of_inherited_disease/b/abstract/part7/ch71
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報